大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム Op.20

【楽曲】ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム Op.20
          <coup>交響組曲「グローリアーナ」 Op.52a
          <coup>4つの海の間奏曲とパッサカリア Op.33
【指揮】スチュアート・ベッドフォード
【楽団】ロンドン交響楽団
【録音】1989年7月
【音盤】NAXOS
【値段】1400円(ブックオフで新品を750円でゲット)
【感想】
シンフォニア・ダ・レクイエムはブリテンが26歳の時の作品で、日本政府より神武天皇即位から2600年にあたる1940年(太平洋戦争が勃発する前年)に開催される祝賀行事の一環として「紀元2600年奉祝楽曲演奏会」の為の奉祝曲の作曲を委嘱されて出来たという曰く付きの作品です。ブリテンは日本に所縁の深い作曲家で、度々来日していますが、能「墨田川」(観世元雅作)を観て感動し、これを題材にして歌劇「カーリュー・リヴァー」を作曲した話は有名です。さて、この奉祝曲の作曲はイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ハンガリーの5ヶ国の作曲家(アメリカは拒否)に委嘱され、この中にはR.シュトラウスも含まれていました。1940年12月14日から東京の歌舞伎座で紀元2600年奉祝楽曲演奏会が開催されましたが、結局、ブリテンシンフォニア・ダ・レクイエムは締め切りに遅れたこと、作品に祝典性が認められないこと、イギリスが敵性国家になったことなどの理由から演目から外されました。しかし、ブリテンにも作曲料(当時7,000円で、現在価値に換算すると2000万円超)は支払われたようです。なお、この曲は1941年にアメリカでバルビローリ@ニューヨークフィルにより世界初演され、日本では1956年にブリテンN響により初演されました。

この曲はレクイエムと題していますが、声楽のない管弦楽曲で通称「鎮魂交響曲」と呼ばれています。また、各楽章に付けられた題名を見るとカトリック典礼に沿って第一楽章“Lachrymosa”、第二楽章“Dies Irae”、第三楽章“Requiem Aeternam”となっており、「死」をテーマにしているようですが、その音楽的な内容は宗教性を帯びている印象はなく、その曲想はブリテンが各々の楽章について第一楽章「穏やかな、行進風の哀歌」、第二楽章「“死の踊り”の形式」、第三楽章「最後の解決」と呼んでいるとおりのもので、どちらかというと交響詩風の性格を帯びた作品と言えるかもしれません。第一楽章は、世界情勢が不安定な世相を反映しているのか全体を通して重苦しい雰囲気が張り詰め、行進(葬列)の重い足取りを模しているのか定期的に刻まれるリズムが鎮痛に響いてきます。管が奏でる不協和と弦の悲鳴にも似た哀切な響きが混沌と絡み合いながら、最後までこの重苦しい雰囲気、停滞感が解決されることなく、次楽章へと間断なく続きます。第二楽章は、曲想が一変して、軽快に刻まれるリズムはサン=サーンス交響詩「死の舞踏」を想起させる諧謔的な性格を帯びるもので、均整の取れていないリズムで大胆な表現に聴こえますが、各々の楽器の音色の多彩さを巧みに活かし、そこから生まれる響きの光沢感のようなものが新鮮で面白く感じられます。これに間断なく第三楽章が続きますが、また曲想が一変して、ホルンの包容力のある柔和な響きと木管の瑞々しい音色とが優美に絡み合い、叙情美を湛えた心地よい音楽が展開されます。これに贅沢な響きの打と艶やかな音色の弦が絡み合い、やがて音楽は高揚感を増していきますが、それも直ぐに鎮静化し、最後は静かに消え入るように音楽の幕が閉じられます。

なお、この時の録音が「皇紀二千六百年奉祝楽曲集」としてCDリリースされていますが、日本人ならば是非とも1家に1枚は揃えておきたい貴重な音盤です。以下の収録曲をご覧頂ければ、マニア垂涎の超レア&超コアな内容で、しかもボーナストラックとして玉音放送のノーカット版まで収録されており、思わずチビってしまいそうな畏れ多い音盤です。当時の時代の空気まで詰め込んだ味わい深い1枚と言えましょう。

(1)R.シュトラウス 皇紀2600年奉祝音楽
    <指揮>ヘルムート・フェルマー
    <楽団>皇紀二千六百年奉祝交響楽団
    <録音>1940年
(2)ピツェッティ 交響曲 イ調
    <指揮>ガエタノ・コメリ
    <楽団>皇紀二千六百年奉祝交響楽団
    <録音>1940年
(3)イベール 祝典序曲
    <指揮>山田耕筰
    <楽団>皇紀二千六百年奉祝交響楽団
    <録音>1940年
(4)ヴェレシュ 交響曲「日本の皇紀2600年へのハンガリーからの贈り物」
    <指揮>橋本國彦
    <楽団>紀元二千六百年奉祝交響楽団
    <録音>1940年
(5)近衛秀麿 大礼奉祝交声曲より第2〜4楽章(第1楽章は未録音)
    <指揮>近衛秀麿
    <楽団>新交響楽団
    <合唱>ヴォーカルフォア合唱団
    <バリトン>内田榮一
    <ソプラノ>松平里子
    <メゾソプラノ>佐藤美子
    <録音>1928年
(6)「終戦詔書」(玉音放送全編)

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4048369

ところで、値崩れが激しいレコード業界。日本はCDやDVDの値段がまだまだ高いと言われていますが、近年のナシクズシとも言える値崩れ状況はコレクターにとっては嬉しい限りですが、その一方で、芸術がこんなに安く叩き売られてしまって良いものだろうかという複雑な心境に陥ることもあります。作品の価値で商品の値段が決まるのではなく、あくまでも受給バランスで商品の値段が決まるという当たり前の現実をこうも露骨に突き付けられてしまうと割り切れないものを感じてしまいます。それはそうとして、この時世に良い作品ならば幾ら奮発しても惜しくないという気前の良い人は少ないはずで、やはり同じCDやDVDを買うならば少しでも安く買い叩きたいと思うのが庶民感覚です。レコードショップを梯子して大人買いしていると、「こっちの店の方が安かったのに!!」「アマゾンだと激安でゲットできたのに!!!」等と取り返しの付かない後悔に苛まれた経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。そんなときに便利なのが“iPhone”“iPad”(Soft Bank)用アプリ「ショッピッ!」。有名なアプリなのでご存知の方も多いと思いますが、CDケースやDVDケースの裏にあるバーコードをカメラで読み取ると、その商品の最安値を調べられるという優れものです。どの程度の精度のものか保証の限りではありませんが、これさえあれば思わぬ高い買い物をさせられるリスクは低減するはずです。

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