大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

第80回日本音楽コンクール ヴァイオリン部門本選会

【番組名】第80回日本音楽コンクール ヴァイオリン部門本選会
【放送局】NHK−FM(らじる★らじる
【放送日】11月28日 7時30分〜9時10分
【演 奏】日本フィルハーモニー交響楽団(指揮:渡邊一正
【場 所】東京オペラシティ・コンサートホール
【感 想】
今年は、諸事情(プロフィールを参照)から日本音楽コンクールを聴きに行くことができませんでしたので、日本音楽コンクール本選会の模様をNHK−FMでエアチェックしました(気が付くのが遅くれ、ヴァイオリン部門の本選会のみ)。来週、日本音楽コンクールのドキュメント番組が放送される予定なので(Eテレ・12月18日(日)15時〜)、ご興味のある方はどうぞ。


    F字孔

第一位:
【入賞者】藤江扶紀 東京芸大3年
【演奏曲】チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲二長調
【感 想】第一楽章は気負いの為か細部の粗さが気になりましたが、第二楽章ではノスタルジックな情趣の漂う演奏は十分に聴かせるものでした。第三楽章になると集中力が増し、浮付いたところがなく1音1音を丁寧に鳴らし切りながら格調高く歌い上げて行く好演を楽しめた。第三楽章後半から日フィルの引き締まった演奏と緊密に呼応し、終曲へ向かって一気に駆け抜けて行く胸の透くような秀演でした。

第二位:
【入賞者】篠原悠那 桐朋女子高3年
【演奏曲】ブラームス ヴァイオリン協奏曲二長調より第一楽章
【感 想】冒頭で力み(奏者の恣意)が感じられてしまう不自然なところはありましたが、繊細なヴィヴラートで実に瑞々しく叙情豊かな演奏で魅了してくれる好演でした。オーケストラとの響きのバランスにも十分に配慮され、ソリスティックに主張するところとオーケストラを聴かせるところを弁えて、ソリストとオーケストラとが絶妙な呼吸感で絡み合って行く一体感のある有機的な演奏を楽しめました。

第三位:
【入賞者】城戸かれん 東京芸大付高2年
【演奏曲】ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲二長調より第三楽章
【感 想】未だ高校2年生の俊英ですが、テンポが安定していて落ち着き払った信頼感のある堂々とした演奏を聴くことができました。多少、細部が浮付いてしまい十分に弾き込めていないかな?という印象の部分はありましたが、全体を通じて若々しく伸びやかな気風が感じられる演奏が魅力で、オーケストラと有機的に絡み合いながら繊細で表情豊かな演奏を楽しめました。快活なカデンツァもGood。

入 選:
【入選者】寺内詩織 桐朋学園大4年
【演奏曲】ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲二長調より第二楽章
【感 想】僕は日本音コンの本選会で寺内さんの演奏を2度ほど聴いていますが(連続して本選会へ出場できるのは安定した実力を持っている証拠)、デリカシーのある表情を付けながら丹念に歌い込んで行く好感の持てる演奏で、以前の本選会の演奏と比べても一層と表現の幅が広がったような印象を受けます。コンクールは1つのキッカケでしかありませんが、今後の成長が楽しみなヴァイオリニストです。

【入選者】宮川奈々 桐朋学園大2年(聴衆賞)
【演奏曲】チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲二長調より第三楽章
【感 想】とても踏込みの良い潔さがあり緩急のメリハリが効いた快演を楽しめましたが、その反面として、多少の気負いのようなものがあったのかもしれませんが、やや前のめり気味の演奏で、それが演奏にバタツキ感(があるような印象)を与えてしまっていたのが残念でした。…とは言え、演奏に破綻を来しているようなところはなく、コーダに向かって一気に畳み掛けて行く辣腕には舌を巻くほどです。