大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

【題名】第65回 全日本学生音楽コンクール 全国大会

【放送】NHK-FM 平成24年1月8日(日)14:00〜18:00
【場所】横浜みなとみらいホール 小ホール
    平成23年12月1日(木)〜平成23年12月6日(火)
【感想】
昨年12月に開催された第65回全日本学生音楽コンクールの全国大会の模様がNHK−FMで放送されたのでエアチェックしました。この全国大会には各地の予選会を勝ち抜いてきた学生121名が出演しましたが、時間の関係から各部門の入賞者の演奏(しかも一部抜粋)のみの放送となりました。人数が多く感想を書ききれませんが、若く有能な音楽家の卵を知って貰うために入賞者の名前をアップしておきます。なお、全日本学生音楽コンクールの開催の趣旨として「お客様に演奏を楽しんでもらうだけでなく、新しい才能を発見してもらう、その才能の伸びゆく姿を目撃し、観客として彼らを育ててもらうのがこの音楽祭の趣旨であり、最大の特徴です。当音楽祭を通して、生れたばかりの才能を育てる楽しみを感じてください。」と記載されていますが、このコンクールは「観客の育成」という隠れた意義があるようです。日本では既に評価が定まっている有名な演奏家や他人が良いと評価している演奏家の演奏会を有り難がる(ヨーロッパの著名な楽団の演奏会や歌劇場の公演など何万円もする高価なチケットには群がる)一方で、無名でも優秀・有能な若い演奏家(の卵)の演奏会には見向きもしないという残念な傾向が顕著です。日本では自分の耳で演奏の良し悪しを聴き分ける覚悟のようなもの(音楽に向かう主体性、文化的素養、感受性等)がやや欠落しているように思われ、著名な演奏家の演奏だと(当日のコンディションや演奏の良し悪しに拘らず)手放しで賞賛する傾向があるように思います。その点、コンクールではいずれの出場者も無名で世評がありませんので、何の先入観もなく自分の耳だけで音楽を聴き分けることができますし、実は無名の若い演奏家の中にも優秀・有能な逸材が多いことを発見すると思います。是非、多くの音楽ファンの方にコンクールや無名の若い演奏家(の卵)の演奏会へもっと足を運んで頂きたいと思っていますし、日本にも若い演奏家を育んで行くという懐の広い文化的な度量のようなもの(芸術や文化を消費するだけではなく、それらを育んで行く意識)が根付いてくれることを願っています。

▼ピアノ部門
− 小学校の部
  1位 山本大誠 静岡大教育学部付属浜松小6年
     グリーグ 組曲「ホルベアの時代」から「前奏曲「アリア」
  2位 波田紗也歌 半田市立半田小6年
     宍戸睦郎 ピアノソナタ第2番から第1楽章
  2位 井関花 神戸海星女子学院小6年
     リスト 「巡礼の年第3年」から「エステ荘の噴水」
  3位 石川美羽 日本女子大付豊明小6年
     リスト 超絶技巧練習曲から第9番「回想」
− 中学校の部
  1位 尾城杏奈 北鎌倉女子学園中2年
     前奏曲集第2巻から「妖精はよい踊り子」「ヒースの茂る荒地」「花火」
  2位 上原琢矢 長崎市立西泊中2年
     ショパン マズルカ風のロンド作品5
  3位 住田琴海 広島女学院中3年
     パガニーニによる大練習曲から「鐘」
− 高校の部
  1位 高尾奏之介 千葉県立東葛飾高1年
     スカルラッティ ピアノ・ソナタイ短調K.54
     スカルラッティ ピアノ・ソナタ長調K.29
     スクリャービン ピアノ・ソナタ第9番作品68「黒ミサ」
  2位 佐野峻司 札幌南高2年
     ラフマニノフ ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品36から第1楽章
  2位 山西遼 桐朋女子高2年
     リスト スペイン狂詩曲
  3位 佐藤元洋 東京芸大付高3年
     ショパン ピアノ・ソナタ第3番ロ短作品58から第4楽章
  3位 太田沙耶 名古屋市立明和高2年
     ラフマニノフ コレルリの主題による変奏曲作品42

▼ヴァイオリン部門
− 小学校の部
  1位 安田理沙 名古屋市立伊勝小6年
     サン=サーンス 序奏とロンド・カプリオーソ作品28
  2位 東亮汰 横浜市立中川小6年
     ブルッフ スコトランド幻想曲作品46から第四楽章
  2位 清水健太郎 小平市立小平第十一小6年
     ラロ スペイン交響曲作品21から第一楽章
  3位 山影頼楓 むさしの学園小6年
     ラロ スペイン交響曲作品21から第一楽章
− 中学校の部
  1位 北田千尋 安田女子中3年
     チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35から第一楽章
  2位 石塚アレクサンダー 青山学院大付属中2年
     イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ作品27から第3番
  3位 郡司菜月 中間市立中間東2年
     シベリスス ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47から第一楽章
− 高校の部
  1位 土井遥 筑波大付属高1年
     シベリウス ヴァイオリン協奏曲
  2位 上野明子 桐朋女子高3年
     ラベル ツィガーヌ
  2位 西川鞠子 相愛高2年
     サン=サーンス ワルツ・カプリース
  3位 大内遥 桐朋女子高1年
     プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番

▼声楽部門
− 高校の部
  1位 高野百合絵 東京音大付3年  
     ドナウディ 「たぐいなく優雅な面影」
     モーツアルト 歌劇「イドメネオ」から「父よ兄よさらば」
  2位 縄田舞奈 聖和女子学院高3年
     山田耕筰 からたちの花
  3位 舩木巧 札幌旭丘高3年
     スカルラッティ 歌劇「愛のまこと」から「ガンジス川に太陽がのぼり」
− 大学の部
  1位 鳥谷尚子 武蔵野音大大学院2年
     ベルク 「初期の七つの歌曲」から「うぐいす」
     チャイコフスキー 歌劇「ジャンヌ・ダルク」から「森よ、さようなら」
  2位 川島沙耶 北海道教育大大学院2年
     ベルリオーズ 歌劇「ベンヴェヌート・チェルリーニ」から「恋と義務のはざまで」
  3位 鈴木玲奈 東京音大大学院1年
     マルクス 君が届けしバラの花

▼フルート
− 中学校の部
  1位 石崎彩夏 新潟市立関屋中2年
     タファネル 魔弾の射手幻想
  2位 清水伶 東京学芸大付属竹早中1年
     ユー ファンタジー
  3位 菅田采希 香川大付属高松中3年
     ガンヌ アンダンテとスケルツォ
− 高校の部
  1位 五十嵐冬馬 東京芸大付属音楽高3年
     ライネッケ フルート協奏曲ニ長調から第2楽章、第3楽章
  2位 中村悦子 京都市立京都堀川音楽高2年
     尾高尚忠 フルート協奏曲作品30bから第1楽章
  3位 八木瑛子 東京芸大付属音楽高2年
     ジョリベ リノスの歌

なお、ある人物から“コンサートホールに対する愛”について面妖な話を聞きましたが、僕が考えるコンサートホールに対する愛とは、個々のコンサートホールが持つ響きの特性を知り、その日のコンサートホールのコンディションを知り、その日のコンサートホールに漂う雰囲気(空気、余韻)を乱さずそれを整えて行くという心持ちでコンサートホールに接する態度であって、それがコンサートホール(音響担当)及びプレーヤー、作曲家に対する敬意であると考えます。この点、コンサートホールで他の観客の目を見ることが“コンサートホールに対する愛”ではなく、寧ろ、音楽を聴くためのコンサートホールに音楽以外の余事を持ち込んでコンサートホールの雰囲気(空気、余韻)を乱すことは了見違いと言わざるを得ません。