大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

フラメンコの素晴らしき世界

【題名】フラメンコの素晴らしき世界
【放送】ミュージックエア(CS 324ch)
     平成23年12月21日(水)20:00〜20:40
【出演】<司会>堀聡(ギタリスト/作曲家)
【感想】
今日も年末年始に撮り溜めていたテレビ番組を視聴することにしました。日本でもダイエットブームに乗って数年前からフラメンコ、サルサ、タンゴ等のダンスブームが到来していますが、そのフラメンコ(特にギター)の起源に焦点をあてたテレビ番組を視聴しました。


http://flamenco-flamenco.com/

フラメンコの起源は古く、10〜11世紀頃に南スペインのアンダルシア地方へ流れて来た北インドの放浪民(スペインジブシー)が歌や踊りから成るフラメンコを誕生させ、19世紀にスペイン音楽(クラシック音楽やスペイン民謡等)の影響からギターが加えられ現在の形に完成されたと言われています。その後、アンダルシア地方一番のフラメンコのメッカであるエビーダで“カフェカンタンテ”(フラメンコを見ることができる酒場)が誕生し、徐々に普及して行きました。スペイン人が語るフラメンコのイメージとして「灰色の空の下で暮らそうとも、ギターは常に最も溌剌とした精神を体現しているもの、とても神秘的な音を奏でる楽器、独特で底知れぬあの世界、それがフラメンコなのだ」と紹介されていましたが、フラメンコ・ギターに限らずスペイン音楽に共通して感じられる個人的なイメージは南スペインの陽射しを感じさせる光彩を放つ音色と複雑で軽快なリズムが織り成す闊達自在な気風です。フラメンコの魅力はそれだけに留まらず、フラメンコ・ギター、ダンサーのステップ、パルマ(手拍子)やハレオ(掛け声)が緊迫感を持って絡み合いながら濃密な舞台を作り上げ、どこか蔭り(ロマの哀愁)のある情熱の発露のようなものが観客を圧倒し、言い知れぬ感慨を与えます。

ギターの歴史は更に古く、8世紀にアラブ人がギターの祖先である「エル・アルー」と呼ばれる古楽器コルドバに持ち込み、それが16世紀後半に「プリマ」と呼ばれる5弦楽器に変化し、更に、18世紀に「プリマ」が進化して6弦目が追加され現在の形状のギターに落ち着きました。その後、フラメンコの伝説的な歌手であるエル・フィーリョがギターを取り入れ、現在のフラメンコの形が完成されました。因みに、ヴァイオリンは15世紀頃に描かれた絵画に(殆ど現在の形状のまま)突如として登場しますが(擦弦楽器は8世紀頃にモンゴルの馬頭琴が誕生したのが最初とも)、その歴史に比べると撥弦楽器は古くからその存在が確認されていたことになります。フラメンコ・ギターは、表面板をフィンランドのモミの木、裏面板をアランフェスの糸杉、寄せ木細工をイチジクの木と数種類の木材(木材から湿気を抜くのに約25〜30年の歳月がかかる)が使われ、1挺のギターを完成させるのに約40日の制作日数を要するそうです。ヴァイオリンと同様に、4〜6弦(高弦)は中国製の絹糸に銅線を巻き付けたもの、1〜3弦(低弦)は子羊の内臓を原料したもの(現在はナイロン)が使われており、そこから「ギターの恋人は内臓」と愛称されるようになったそうです。ギターの名工の系譜は、?フランシスコ・ゴンサレス→ホセ・ラミレス・プリメロ→?マヌエル・ラミレス→?サントス・エルナンデス/?ドミンゴエステソという流れですが、さしずめヴァイオリンに例えれば、?’アンドレア・アマティ→?’ニコロ・アマティ→?’アントニオ・ストラディバリ/?’アンドレア・グァルネリという系譜に準えることができるでしょうか…。機能美という言葉がありますが、ギターにしてもヴァイオリンにしてもその形状は合理的で無駄がなく、しかも洗練された美しさを兼ね備えています。その意味でギターやヴァイオリンは美術工芸品としても鑑賞に堪え得るものですが、それ以上に1挺のギターやヴァイオリンは様々な人々に弾き継がれ、その人々の人生や思いが詰め込まれた音の年輪が感じられるところに最大の魅力があるように思います。鳴らしてこその楽器だと思いますし、楽器は弾き手を見極め、生き物のように変化していきます。…と埃(誇り?)まみれの愛器を横目に後ろめたい気持ちに苛まれています。

なお、昨年、沖仁さんが3大ギター・コンクールの1つである「フラメンコ・ギター国際コンクール」の国際部門で優勝(日本人初)しましたが、自分でやってみるのはどうも気が引けるという方は、映画やライブ演奏等でも楽しむことができますのでいかがでせう。

http://www.cdjournal.com/main/news/oki-jin/32370
http://www.anif.jp/ctt_anif_link.htm#bar