大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

クララ・シューマン 愛の協奏曲

【映画】クララ・シューマン 愛の協奏曲
【題名】クララ・シューマン 愛の協奏曲
【監督】ヘルマ・サンダース=ブラームス
【出演】マルティナ・ゲデック(クララ•シューマン
    パスカル・グレゴリー(ロベルト•シューマン
    マリック・ジディ(ヨハネス•ブラームス)  ほか
【会場】Bunkamuraル•シネマ(渋谷) 10時20分〜
【料金】1800円
【感想】
この映画の監督ヘルマ•サンダース=ブラームスブラームス家の末裔だそうですが、この映画はクララ・シューマンロベルト・シューマンヨハネス・ブラームスの三角関係(とりわけクララとブラームスのプラトニックな間柄)に焦点を当て、当時の記録(関係者の書簡)などから三人の秘せられた関係性を描く伝記物です。強い女クララと繊細な男ロベルトを対比した人物描写(現代風に言えば肉食系の女と草食系の男)は上手く出来ていたと思いますが、(遺族感情に鑑みれば仕方がないことかもしれませんが)ややブラームスの描き方が創作され過ぎている印象で釈然としないものを覚えます。もっとブラームスの音楽に漂う悶々とした葛藤のようなものを含めてブラームスの等身大の姿を描き出して欲しかったような気もします。また、基本的に演奏シーン以外は音楽を流さない方針だったようですが、妙なリアリティは不要なので、もっと三人の音楽を(そのイメージを膨らませてくれるような使い方で)散りばめて欲しかったです。音楽の中にこそ、彼らの真実があるのですから。その一方で、例えば、デュッセルドルフの酒場においてブラームスのピアノ伴奏で演奏するヴァイオリニストがヴィブラートを多用しているシーンがありましたが、このような細部の描き方が粗雑な印象を否めず、きちんとした時代考証のもとデリカシーのある描き方をして欲しかったシーンも多かったのが残念です。

クララ・シューマン 愛の協奏曲 [DVD]

この映画は1人の女性を巡る物語ですが、(誤解を恐れずに言ってしまえば)ロベルト・シューマンは1人の女性の為に音楽を作り、ヨハネス・ブラームスは1人の女性だけを想って自分の為に音楽を作りましたが、(室内楽曲は作曲家の心情が最も色濃く映し出されると言われますので)果たしてクララ・シューマンの曲から何を感じますか。優しい愛に包まれる女性の幸福感と、その幸せの儚さを予感し不安に苛まれる繊細で複雑な心情が映されているように感じられますが...。

クララ・シューマン ピアノ三重奏曲Op.17より第三楽章

ロベルト・シューマン ピアノ四重奏曲Op.47より第三楽章
(愛が溢れています。僕までトロケてしまいそう…ああ、ロベルト様)

ヨハネス・ブラームス ピアノ三重奏曲第1番Op.8より第三楽章
(胸焦がれています。抱き枕を抱えた寡男の哀切な呻き声が漏れてきそうです。)

【おまけ】クララ・シューマン 3つの前奏曲とフーガより第3番
(何と女性的な繊細で優美なフーガ!)