大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い

【題名】ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い
【監督】カルロス・サウラ
【出演】ロレンツォ・バルドゥッチ
    リノ・グランチャーレ
    エミリア・ヴェルジネッリ ほか
【料金】TUTAYA 旧作100円
【感想】
入院中の病床にて。両腕のあちらこちらに残る点滴の注射針の跡に闘病生活の戦歴が刻まれていますが、僕の血管は分厚い皮下脂肪に阻まれ、かつ、その形状も捻くれた性格を写して曲りくねっているようで、看護士さんには大変なご苦労をお掛けしてしまいました。この場を借りて御礼申し上げます。この時期が一年で一番良い気候ですが、毎日、病床で青空ばかりを眺めています。「雲」「氷」「水」等を被写体として写真を撮っている写真家がいますが、「雲」を眺めていると二つとして同じ形状のものはなく、また、一つ所に留まらず千変万化するので飽きません。偶然が生む瞬間の象形美です。こうして日常とは異なる時間に生きていると、同じ世界が違うものに見えてきます。先日、「ワキ」(能楽)の話しをましたが、昔の日本は「新たな生を生き直す」機会に恵まれた弾力性のある懐の広い社会だったように思われ、きっとそれに救われてきた人達も多かったのだろうと思います。現代の日本は、毎年、自殺者が3万人を超えるそうですが、「新たな生を生き直す」選択の機会に恵まれず、思い詰めた人達が死を選ぶしかない硬直した社会になってしまったのだろうと、ふわふわと柔らかく漂う浮雲を見ながら感じた次第です。これだけ組織化されてしまった現代社会を変えることは難しいので、我々自身が「思いなす力」「思い切る力」の意義を再認識して自分自身を追い詰めないよう賢く(強く)生きるしかないのかもしれません。一旦、自分がしがみついているものを捨ててみると、実はそれが自分にとって本当に大切なもの、本当に必要なものではないことに気付いて気が楽になることがあります。こんな社会だからこそ「ワキ」の生き方に学ぶところは多いのではないかという気がしています。(本日の所感)

さて、本日は、映画「カルメン」や映画「サロメ」の監督であるカルロス・サウラさんの最新作、映画「ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い」をTUTAYAの旧作100円レンタルで借りて再視聴しましたので、その感想を簡単に残しておきたいと思います。

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い [DVD]

この映画は、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」が誕生する過程を、稀代のプレイボーイであるドン・ジョヴァンニドン・ファン)の伝説に、ダ・ポンテの人生を重ねて合わせて描いた伝記的なフィクション作品です。冒頭からヴィヴァルディの曲が流れて面を食らってしまいますが、これはヴェネティアで過ごしたダ・ポンテの少年期から青年期を描いているためで、ウィーンに移り住むところから歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の音楽が流れ始めます。歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の台本はモリエールの「ドン・ジュアン」に着想を得ていると言われていますが、この映画ではダ・ポンテの人生が台本に投影されて行くという描かれ方がしています。この映画でダ・ポンテの人物像が詳らかにされているのは興味深かったですが、ダ・ポンテに比重が置かれた描き方がされており、もう少しダ・ポンテとモーツアルトの関係性を深く掘り下げて描いて欲しかったという物足りなさも感じます。歌劇「ドン・ジョヴァンニ」を観たことがない人がその予習用に観るのには向いているかもしれませんが、歌劇「ドン・ジョヴァンニ」が誕生するまでの真実(史実)に迫るという内容を期待されている方には手応えがないかもしれません。なお、モーツァルトが奇人変人ではなく(多少破天荒なところはあるものの)仕事熱心な真っ当な人間として描かれているところは実像に近く好感しましたし、(カルロス・サウラさんは吹替えを許さない主義らしく)映画に登場する歌手役にプロの声楽家が起用されていたところも好感しました。なお、舞台セットや衣装も美しく目を惹かれますので、お見逃し無く。

◆映画「ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い」の予告編

◆映画「アマデウス」から歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より騎士長の石像が登場するシーン(「悔い改めよ、生き方を変えろ」)(iPhoneでは上手く視聴出来ないようなので、PCで視聴して下さい。)

◆おまけ
千変万化する「雲」も良いですが、古より幾多の歌人が眺めてきた変らぬ「月」も見飽きません。「月」を詠んだ美しい和歌が多いように、「月」を奏でた音楽にも美しい曲が多いです(定番中の定番ですが..)。そして、あの生真面目なパパ・ハイドンが「月」をテーマにしてハチャメチャな歌劇を作曲しています(“You Tube”に映像がなかったので、DVDだけご紹介しておきます。)。

Haydn: Il mondo della luna [Blu-ray] [Import]
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3903550