大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

フェルメールの楽器 音楽の新しい聴き方

【題名】フェルメールの楽器 音楽の新しい聴き方
【著者】梅津時比古
【出版】毎日新聞社
【発売】2009年7月28日
【値段】2100円
【感想】
のだめ効果の余波なのか、活字離れが叫ばれる昨今でも音楽を題材とした新書は毎月のように発刊されていますが、なかなか心の琴線に触れるような本には巡り合えません(従って、このブログでも辛口の感想が多いです。)。が、この「フェルメールの楽器」は個人的に面白いと思えた本だったので、ご紹介しておきましょう。なお、最近では、石田衣良さんの「眠れぬ真珠」でモンポウが採り上げられ(数年前からクラシック愛好家の間ではスペインのクラシック音楽がしめやかに流行していたので、その影響で石田さんもモンポウを愛聴されていたのかもしれませんが)、村上春樹さんの「1Q84」でヤナーチェクが採り上げられて社会的な脚光を浴びましたが、その影響があって国内で入手できる音盤の種類や演奏会で採り上げられる機会が増えましたし、何と言ってもマイナーな作曲家や秘曲が認知されるということはそれだけこの国の音楽受容力が改善することにもつながりますので、大変に歓迎すべき傾向だと思います。僕がこのブログでちまちまと書いていても大した影響力がありませんので、人気作家の方がもっとマイナーな作曲家や秘曲を採り上げた本を出版してくれることを願いたいです。

フェルメールの楽器 音楽の新しい聴き方

著書の梅津時比古さんは音楽評論家として新聞等への投稿も多く知らない方は少ないと思いますが、名著「セロ弾きのゴーシュの音楽論」(東京書籍)の著者と言えばピンとくる人もいるでしょう。この本のタイトルにもなっている画家のフェルメール(現在、「フェルメール光の王国展」が開催中)はリュートやヴァージナル等の楽器やそれらを演奏する人々など音楽を題材にした絵画を数多く描いていることでも知られる画家ですが、それらのフェルメールの絵画が「音楽を奏でる絵画」であるとすれば、差し詰め、この本は「音楽を奏でるエッセイ」といった趣を持っています。この本では様々な楽曲が採り上げられ、それらの楽曲のイメージを広げてくれる珠玉のエッセイが綴られています。楽曲の本質を適確に捉えた文章は大人の読者を十分に満足させる充実した内容を持っている一方で、子供にも読み易い平易な書き振りになっていて「名著、読者を選ばず」といえる好著だと思います。


http://www.vermeer-center-ginza.com/

この本では音盤も紹介されていますので、この本を読んで興味を持った曲があれば、是非、実際に音楽も聴いて欲しいと思います。僕は、この本を読んでいて文章でこれだけ音楽を表現できるものかと目から鱗が落ちること度々でした。昔は、理屈を捏ね繰り回す音楽理論書ばかりを好んで読んでいましたが、そんな耳学問に明け暮れていても一向に音楽への理解(共感)が深まることはなく、最近はこの種のエッセイ本の方が音楽への理解(共感)が深まり、自分の音楽ライフ(感受性)を豊かにしてくれるので好んで読むようになりました。この種の本として、中沢新一さんの「音楽のつつましい願い」(筑摩書房)もお薦めしておきます。この本の中で前述のヤナーチェクも紹介されていますが、そのエッセイを読むと思わずヤナーチェクの曲を聴きたくなると思います。

音楽のつつましい願い

モンポウ
石田衣良さんが聴いていたであろう、筆が運びそうな曲を選んでみました。1つ目の音源はスペインのクラシック音楽の普及に多大な業績を残したピアニスト、ラローチャのものですが、残念ながら2009年に他界してしまいました。スペインのクラシック音楽の魅力を教えてくれた僕にとっての「音楽の母」です。


◆おまけ
You Tube”で「モンポウ」を検索していたら何故か「スカルラッティ」の音源がたくさんヒットしましたので、時代はぐっと遡りますが、何かのご縁ということで一緒に紹介しておきましょう。

何故、こんなに面白く聴こえてくるのでしょうか、グールドが弾くと楽曲に新たな生命が吹き込まれるようです。バロック音楽をピアノで弾く意義を教えてくれます。

ハスキルの一気に駆け抜けて行く疾風のような演奏もお楽しみ下さい。

エレーンによるハープシコード古楽器)の演奏もアップしておきます。ピアノの演奏と聴き比べてみて下さい。

◆おまけのおまけ
以下のビデオはビアニストのアムランを紹介したドキュメンタリーです。これまで演奏至難という理由(作品の価値ではなく、演奏家の技量の問題)で放置されていた難曲中の難曲を、次々と世に紹介してきたアムランの功績は賞賛に値します。このビデオの中でアムランが演奏を披露しているアルカンはショパンと同時代の偉大な作曲家ですが、これまで演奏至難という理由で殆ど演奏会で採り上げられることはありませんでした。しかし、最近では、アムランの影響でアルカンやカプースチンなど演奏至難な難曲に挑むピアニストが徐々に増え状況が改善されてきたのは嬉しい限りです(但し、本プログラムではなく、エクスキューズの効くアンコールで演奏されることが比較的多いです。)。