大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

殴り合う貴族たち 〜平安王朝裏源氏物語〜

【題名】殴り合う貴族たち 〜平安王朝裏源氏物語
【著者】繁田信一
【出版】柏書房
【発売】2005年9月
【値段】2310円
【感想】
最近、大河ドラマ平清盛」の視聴率低迷に関する記事を読んで、少し思うところもあって、かなり昔に読んだ本「殴り合う貴族たち 〜平安王朝裏源氏物語〜」の簡単な感想を投稿しておきたいと思います。

殴り合う貴族たち―平安朝裏源氏物語

大河ドラマ平清盛」の視聴率低迷は、(記事によれば)兵庫県知事の井戸敏三氏が「画面が汚い」と失言したことに端を発するそうですが、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんが仰るとおり「時代考証が素晴らしい質の高い」番組だと思うので、僕は毎週欠かさずに観ています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120519-00000553-san-soci
http://www.sanspo.com/geino/news/20120518/oth12051810300020-n1.html

この本を読むと、平安時代の貴族社会は源氏物語が描く雅な宮中生活のイメージとは異なり、藤原実資の日記「小右記」(平安貴族の暮らし振りなどを垣間見ることができる非常に興味深い内容)に記されている日々の出来事からピックアップし、これまで表立って語られることのなかった蛮行の限りを尽くす平安貴族の辟易とするような実態を明らかにしています。源氏物語は理想の貴族像が描かれているのに対し(現代で言うところの少女マンガ的なもの)、小右記には実際の貴族像が浮き彫りにされています(現代で言うところの週刊誌的なもの)。詳しいエピソードはこの本を買って読んで戴きたいですが、(事件に至る経緯や理由、人間模様が面白いのですが)目次的にサワリだけご紹介しておきます。


あまりにも人間臭く醜い平安貴族の等身大の姿に学校では教えてくれない隠れた歴史の真実(恥部)を垣間見るような思いがしますし、平安貴族の蛮行の裏に潜む個人的又は社会的な背景に思いを巡らせてみると当時の社会・風俗を肌感覚で理解できます。その意味で、学校の教科書などを読むよりも、この本を読んだ方がこの時代への理解と共感は深まるかもしれません。平安貴族(武士や町民、農民は尚更のこと)は風呂に入る習慣がなく(貴族の洗髪は1ヶ月に1回とも)、もともと日本人は体臭が強い民族ではありませんが、平安時代の女御達は体臭を消すために香を炊いて着物に香りを付け体臭を消していました。江戸時代とは違って平安時代の町並みは誇りっぽく汚くて、都を往来する人の顔はドス黒く煤け着物も汚かったと言われていますし、夜ともなれば盗賊や野犬がウロウロして大変に物騒だったとも言われています。だからこそ平安貴族は源氏物語が描く雅な宮中生活、理想の貴族像に憧憬を抱いたのであって、源氏物語が描く雅な宮中生活のイメージは平安時代の貴族社会の実際を有りの儘に映したものではありません(少女マンガと週刊誌の違い)。井戸知事が行ったとされる発言に象徴されるように、平安時代の時代観を理想化し過ぎているきらいがあるように思われます。僕は視聴率を意識してテレビ映えするように脚色された「平成の平清盛」を観たくて大河ドラマを観ているのではなく(..だとすれば、それは単なる刹那的な娯楽に過ぎません)、可能な限り平清盛が生きた時代を忠実に再現して貰い、それを擬似的に追体験して歴史上の実在の人物である平清盛の真実に迫りたいという思いで大河ドラマを観ています。もし本当にこのような発言が行われたのであるとすれば、井戸さんの個人的な趣味として「平成の平清盛」を観たいという趣旨で述べたのか又は作者の表現意図を顧みず単なる素朴な印象を述べたのか、どのような文脈又は意図で行われた発言か分かりませんが、作者の表現意図を理解しようと試みた結果として作者の表現意図に共感できない又はその表現意図を感得できないという趣旨の発言であったとすれば理解できますが、作者の表現意図を顧みようとせずに行った失言であるとすれば(その社会的な地位や発言力を考えれば尚更として)あまりに不用意であったとの謗りを免れないと思います。作品を批評する以上は、その表現意図に共感し又はその表現意図を感得できるか否かは別の問題ですが、作品を鑑賞する態度として作者の表現意図を理解しようとする姿勢が求められ、それが批評する者の最低限のモラルであり責任であると考えます。

大河ドラマ平清盛」主題歌のピアノソロ編曲版
“遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん”(梁塵秘抄)という今様の歌詞が耳に残る主題歌ですが、大河ドラマ平清盛」にエールを送る意味で主題歌のピアノソロ編曲版をアップします。色々な方が編曲されているようですが、個人的には、これが最もピアニスティックな編曲だと思います。

◆おまけ
現代のヴァイオリン技法の全てを編み出したと言って過言ではない稀代の天才ヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニ。彼の神業的な技巧と豊かな音楽性は当時のヴァイオリニストのみならずリストを始めとしたピアニストほか同時代人の音楽家を驚嘆させ、多大な影響を与えました。彼の代表作である超絶技巧曲「24のカプリース」第18曲のモチーフを使って数多くの作曲家が作品を残しています。その一部をご紹介します。

パガニーニ(原曲)

▼解説
僕の敬愛する玉川大学芸術学部教授 野本由紀夫先生の解説をご覧下さい。(iPhoneでは上手く視聴できないようなので、PCで視聴して下さい。)

ラフマニノフ
原曲とは全く異なるモチーフのようですが、原曲のモチーフを反転させた鏡映形のモチーフを使っています。

ブラームス

▼リスト

▼ルトワフスキー