大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

劇団四季「キャッツ」横浜公演

【演題】劇団四季「キャッツ」横浜公演
【演目】アンドリュー・ロイド=ウェバー ミュージカル「キャッツ」
      <グリザベラ>佐渡寧子
      <ジェリーロラム=グリドルボーン>朴慶弥
      <ジェニエニドッツ>鈴木由佳乃
      <ランペルティーザ>石栗絵理
      <ディミータ>原田真由子
      <ボンバルリーナ>西村麗子
      <シラバブ>江部麻由子
      <タントミール>高倉恵美
      <ジェミマ>齋藤舞
      <ヴィクトリア>廣本則子
      <カッサンドラ>蒼井蘭
      <オールドデュトロノミー>青井緑平
      <アスパラガス=グロールタイガー>田島亨祐
      <バストファージョーンズ>田島亨祐
      <マンカストラップ>武藤寛
      <ラム・タム・タガー>福井晶一
      <ミストフェリーズ>岩崎晋也
      <マンゴジェリー>川東優希
      <スキンブルシャンクス>岸佳宏
      <コリコパット>花沢翼
      <ランパスキャット>高城将一
      <カーバケッティ>齊藤太一
      <ギルバート>入江航平
      <マキャヴィティ>片山崇志
      <タンブルブルータス>松永隆志           
【演出】浅利慶太
【振付】加藤敬二、山田卓
【会場】キャノン・キャッツシアター
【開演】17時30分〜
【料金】6000円
【感想】
とうとう横浜キャッツが2012年11月11日(どうでも良いことですが、2月22日ならば“にゃんにゃんにゃん”で猫の日だったんですが..)で千秋楽を迎えることに決定しました。横浜キャッツは2009年11月11日に開幕していますので、丸3年の記録的なロングランとなりました。横浜キャッツシアターの周辺は、今でこそ近隣にオフィスビルアミューズメント施設などが立ち並んでいますが、シアターが出来た当時は見渡す限りの空き地で道行く人の姿もなく、この変貌振りを見ていると3年という歳月の移り変わりを実感します。劇団四季の「キャッツ」は、1983年11月11日に西新宿の特設劇場で初演して以降、大阪、名古屋、福岡、札幌、静岡、広島、仙台、横浜の9都市で上演が重ねられ、昨年10月28日に通算8,000回の公演回数に達し、ニューヨークの公演回数7485回を超えて、ロンドンの公演回数8949回に迫る勢いです。観客の年齢層は幅広く、大人から子供まで楽しめるエンターテイメントとして多くの人に愛されてきた公演で、ピュアなハートを取り戻したいときや勇気付けられたいときなどに観ると効果覿面かもしれません。是非、千秋楽前にもう一度、横浜キャッツを観に行きたいのですが..。


http://www.shiki.gr.jp/applause/cats/index.html

先ず、劇場内に入るとセットに目を惹かれますが、舞台だけでなく客席の壁面にも細工が施され、劇場全体がキャッツの住むゴミ捨て場の中という演出になっています。この細工がディーテイルに拘った見事なもので、我々観客が猫の世界に入っていける(猫を人間の世界に呼び込むのではなく、人間が猫の世界に引き込まれる)よう通常のサイズより大きめに作られており、これを見ているだけでも楽しめます。まだ公演中なのでネタバレしないように詳しい感想は控えますが(..とは言え、既に東京公演や他の地方公演の情報がネットにアップされているようなので多少のネタバレは許容されるという前提で書きますが)、冒頭は真っ暗に照明が落とされた会場の四方八方からキャッツが黄色い目を光らせながら登場するという演出により、我々観客がキャッツの住むゴミ捨て場の中にいるような臨場感を演出し、徐々に猫の世界へと引き込まれて行きます。このように舞台だけでなく客席を巻き込んで舞台が展開されて行くのが特徴ですが、偶々、僕は通路寄りの席に座っていた為、タントミール役の高倉さんが客席まで来て僕の目を見詰めながら何やら歌い掛けてきたのでシャイな僕は大照れしてしまいました...(*^0^*)いや〜ん♪ ラム・タム・タガー役の福井さんは舞台映えする存在感(華がある)が魅力的でしたし、バストファージョーンズ役の山田さんも毛並みの良さを感じさせる演技と歌唱が素晴らしかったです。オールドデュトロノミー役の青井さんは柔和で包容力のある歌声がキャラクターにマッチしてはまり役、スキンブルシャンクス役の岸さんは持ち前の美声による気品のある歌唱が印象的でした。さすがはロングラン公演だけあって、キャラクター表現が良く考えられていて、また、舞台の動線も無駄がなく、夜行列車の群舞なども洗練された鮮やかなものでした。ミュージカルは歌や演技だけではなくダンスも魅力ですが、ミストフェリーズ役の岩崎さんのアラセゴン・ターンは(正確には数えていませんが)23回転以上だったと思いますが、その磨き抜かれたダンスが見応えあります。そして、ジェリーロラム役の朴さんは非常に歌唱力がある方で(歌手を本業としても食べて行けそうな上手さです)、アスパラガス役の田島さんの燻し銀の味のある歌唱との二重唱(個人的にはこのミュージカルの中で一番好きなピース)が出色でした。また、この公演で見所だったのは、グリザベラ役の佐藤さんが名曲メモリーを人生の悲哀を込めながら情感豊かに歌い上げる心に響く歌唱を聴かせてくれました。佐藤さんのグリザベラは老猫役でありながら、どこか気品のようなものが感じられて美しいです。老いを美しく演じられる洗練された演技力には感服です。最後は力強い合唱と大掛りな演出による大団円となり、非常にエンターテイメント性の高い舞台を楽しめました。その他、ゴキブリのタップダンスを含むダンスやアクロバティックな動作等も見所で、その身体機能の高さには舌を巻きます。非常にハードな舞台で身体の故障も多いと聞きますが、これだけのロングランともなればレッスンのハードさに加えて身体の管理(ケア)にも大変なご苦労があるのではないかと察します。(パリ・オペラ座バレエ団では男性は約40歳、女性は約35歳で定年を迎えるそうですが、劇団四季では何歳まで現役として踊れるのかしら?)。

▼キャッツにも色々...

これがキャッツだにゃー!!


僕には飛べにゃいにゃ〜


Zzzz...

日本には約600年も昔から能楽というミュージカル(歌舞劇)が存在しますが(約600年も昔に演劇に舞=ダンスを採り入れた世阿弥の斬新性!)、基本的にアメリカで生まれたミュージカルと日本で生まれた能楽とは同じ歌舞劇と言ってもその性格は本質的に異なります。落語家の故立川談志さんによれば、ミュージカルを観て得られる感懐は「しょせん“見世物”としてのもの」ということになるのかもしれませんが、見世物としては一流のエンターテイメント性を有しており老若男女を問わず楽しめる分かり易さがあります。確かにミュージカルは能楽が体現するような深淵な思想性は感じられませんが、同じ歌舞劇と言ってもミュージカルと能楽とではその目的や効用は全く異なるものだと思いますので、この2つを比べること自体がナンセンスなのかもしれません。いつか宮崎駿の作品をミュージカルに仕立てて欲しいと思っているのですが..。

キャッツ [DVD]
ブロードウェイのDVD(劇団四季のDVDはない?)

劇団四季「キャッツ」からメモリー

◆横浜キャッツの舞台裏を取材したVTR
レッスンは相当にハードで、舞台での故障も多く辞める人も多いと聞きますので、見た目の華やかさとは違ってとても厳しい世界だと思います。

◆おまけ
キャッツの第二幕「メモリー」では老猫グリザベラが明日への希望を歌い、皆から新しい命を得る猫に選ばれて長老猫デュトロノミーに手を引かれながら昇天しますが、これはキリスト教の「ミサ」(キリストの死と復活の記念)を想起させる場面として印象的です。ところで、世界三大ミサ曲と言えば、バッハのミサ曲ロ短調モーツアルトの大ミサ曲ハ短調ベートーヴェンの荘厳ミサ曲ニ長調が有名ですが、(あまり演奏会で採り上げられませんが)ロマン派以降に属する作曲家もミサ曲の傑作を数多く残しています。ミサ曲なのでメロディアスでラブリー&イージーな聴き易い曲はありませんが、代表的な曲をご紹介しておきましょう。ブルックナーのミサ曲第3番(但し、演奏の良し悪しにもよりますが)など、その神々しい音楽に心が浄められる思いがします。
シューベルト ミサ曲第6番

ブルックナー ミサ曲第3番(この絵が何だか..)

ロッシーニ 小荘厳ミサ曲