ぶらあび

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ナショナルエディションによる全曲演奏会第10回  河合優子 ショパン・リサイタル

【演題】ナショナルエディションによる全曲演奏会第10回
    河合優子 ショパン・リサイタル
【演目】ショパン ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21(室内楽版)
         ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11(室内楽版)
【出演】<Pf>河合優子
    <1stVn>ヤン・レフタク
    <2ndVn>マグダレーナ・スモチンスカ
    <Va>マレク・マルチク
    <Vc>アンジェリカ・ヴァイス
【会場】浜離宮朝日ホール
【開演】14時〜
【料金】5000円
【感想】
先週から上海(中国)へ出張で行ってきました。中国のテレビでは昼夜を問わず尖閣諸島の問題が報道されていましたが、この問題に対する上海市民の関心は高い訳ではなく街は平静を保っています。金科玉条の如く語られるリョウドモンダイですが、いちいち感情的に反応する某知事やマスコミなど、まるで子供が砂場の陣地取りをしていがみ合っているようなクダラナさに呆れています。“ナメた”の“ナメられた”のと、こんな小さな星で猫の額ほどの土地を大人気もなく本気で奪い合っている了見の狭い人たち。どうせ人も住めないような小島なのだから、いっそのこと吹き飛ばしてしまえばいいとすら思えてきます。それはさて置き、上海の交通事情には驚かされましたが、車線はあってないようなもので、強引な幅寄せや(車間が空いていないところへグイグイと頭を突っ込んでくる)割込みなどは当たり前、タクシーや普通車のみならず路線バスやパトカーに至るまでサイド・バイ・サイドのカーチェイスが繰り広げられています。同じ中国人(と言っても色々な民族がいますが)の間でも“何がなんでも譲らない” ことが基本的なメンタリティとしてあるようで、クラクションやパッシング、車を降りての口喧嘩は日常の風景にすっかりと溶け込んで違和感がありません。自己主張の強い中国人の気質(尤も、日本人でも発生頻度は低いですが偶に見掛けます)がよく表れていますが、その当然の帰結として追突・接触事故が多く(あちらこちらで事故を見掛ます)、日本の教習所で教えているような運転では上海の道路では生き残れませんので、決して日本人が上海でレンタカーを借りて運転を試みてみようなどと思ってはいけません。この点、日本人の規律正しさや互譲の精神(取り敢えず他人に先を譲りますので)は見直してしまいます。レストランや飛行機の中で大声を張り上げて捲し立てるような激しい口論を行っている現場に何度か遭遇しましたが(日本人にはあまり見られない気性)、これは中国人にとっては当たり前の自己主張のようで(もちろん色々な性格の方がいますが)、隣国でも似て非なる民族であることを十分に理解して付き合わなければならないことを痛感している今日この頃です。


濃霧で幻想的な外灘(ワイタン)の夜景

さて、かなり以前になりますが、ピアニストの河合優子さんがショパン国際コンクールで推奨されているナショナルエディションの演奏会を聴きに行ったので、その感想を簡単に残しておきたいと思います。今更、ナショナルエディションについて解説するまでもありませんが、一言でいえば、この楽譜についた歴史の垢(印刷会社のミスプリや後世の加筆など)を洗い流して、可能な限り、この曲の素顔(原典版)を明らかにしようというプロジェクトから生まれた新版です。河合さんはこのプロジェクトに参加されたメンバーの1人で、現在は、主に日本でナショナルエディションの普及、振興に尽力されており、この演奏会もそのような趣旨で開催されたものです。なお、この演奏会で使用されたピアノはスタインウェイ・コンサートグランド(D−274モデル/1959年ハンブルク工場製造)でしたが、このピアノと同モデルのピアノは日本国内では宮内庁桃華楽堂に1台あるだけだそうです。

http://www.yukokawai.com/

今日はワルシャワフィルハーモニー弦楽四重奏団(名前のとおりワルシャワフィルハーモニー管弦楽団のメンバーで構成)を招いてショパンのピアノ協奏曲第1番及び第2番の室内楽版(ヤン・レフタクさんがピアノ・クインテットにアレンジ)が演奏されました。以前、ピアニストの小倉貴久子さんがプレイエルを使ってショパンのピアノ協奏曲第1番の室内楽版(ピアノ・ゼクステット)を演奏するのを聴いたことがありますが、音楽受容のあり方やその多様性について色々と考えさせられる契機になりました。昔は鉄道や車などの高速移動手段がなく、現代のようにあちらこちらにコンサートホールがあってプロ・アマを合わせて沢山のオーケストラがあった訳ではありませんし、また、CD、ラジオ、テレビなどのメディアもなく、音楽が普及するためのメディアとしては楽譜しかありませんでしたので、必然、一般市民が自分たちで楽譜を購入して自分たちで演奏して音楽を楽しむというスタイルの音楽受容のあり方以外は成立し難い環境にありました。その結果、コンチェルトなどの楽曲を一般市民に普及させるためには、オーケストラ版をより一般市民が演奏し易い(音楽を受容し易い)室内楽版やピアノ・ソロ版などにアレンジして楽譜を出版する必要があったということになります。ショパンのパリ・デビューリサイタルでもピアノ協奏曲第1番のピアノ・ソロ版(又は室内楽版)が演奏されたようですし、当時の一般市民にとってはショパンのピアノ協奏曲と言えばオーケストラ版よりも室内楽版やピアノ・ソロ版の方が馴染みがあったのではないかと思います。因みに、ショパンはピアノ協奏曲をオーケストラ・パートも含めてピアノで作曲し、それを基に別の人がオーケストレーションを施しており、その意味ではピアノ・ソロ版が最もショパンの作曲意図に忠実なオリジナル譜と言えるかもしれません。

ショパニッシモ第7集

さて、ピアノ協奏曲第2番の室内楽版は初めて聴きましたが、オーケストラ版よりも室内楽版の方が(演奏者にも拠りますが)この曲が持つ詩情が引き立つような印象を受けます。第一楽章では河合さんがルバートを効かせて奔放なまでの歌心溢れる演奏を聴かせてくれましたが、室内楽版ならではの囁き掛けてくるような詩的で静謐な調べに惹かれました。ワルシャワフィルハーモニー弦楽四重奏団のしなやかなアンサンブルからは実にまろやかなサウンドが生み出され、各声部がピアノと親密な対話を交わしながら宛ら赤ちゃんの素肌を思わせるような肌理濃やかな極上のアンサンブルが大層魅力的に感じられました。この室内楽版ではオーケストラ版にも増してピアノが主導的な役割を担いますが、さすがはこの曲を知り尽くしているワルシャワフィルの面々だけあって、ピアノが歌う部分では伴奏に徹してピアニストを自由に泳がせる自在なサポート振りに唸らされました。そして、第二楽章が白眉でした..。河合さんのデリケートなタッチから紡ぎ出される甘く切ないロマンティシズム、その憧憬感漂う演奏に暫し夢心地の気分にさせられました。河合さんは移ろい行く心象風景を繊細に描き出していましたが、まるでショパンの心に触れているような肌理細かく情感豊かな演奏が河合さんの魅力でもあります。加えて、ワルシャワフィルも絶妙な間合いとバランスでぴったりとピアノに寄り添う好サポートで、とりわけヴィオラの上品な質感のある音色と叙情豊かな歌い口によって内声部が豊かに香る芳醇なアンサンブルを楽しむことができました。第三楽章では室内楽版の利点でもあるフットワークの軽さを活かしたキビキビとした滑舌の良い演奏が展開されましたが、決して粗野になるところがないデリカシーのある(しかしギスギスと神経質になり過ぎることのない)演奏を楽しむことができました。この室内楽版はオーケストラ版と比べるとよりショパンの肉声に近い等身大の音楽が聴こえてくるように感じられ、その点が最大の魅力ではないかと思います。

ショパニッシモ第4集

次に、ピアノ協奏曲第1番ですが、室内楽版ならでは進退自在の演奏と言うべきか、第一楽章では優しく暖かみのある演奏から情熱迸るダイナミックな演奏まで緩急織り交ぜた表情豊かな演奏を楽しめました。とりわけ展開部のピアノ・ソロのリリシズムは筆舌に尽し難い美しさで、スモチンスカさんもヴァイオリンを抱えて天井を見上げてしまうほどの陶酔感がありました。お聴かせできないのが残念..(笑)このような透徹したリリシズムは河合さんならではと言えるもので、音楽に呑まれてしまうというのか会場も静寂に包まれる至福の瞬間でした。弦楽は前半と同様に各声部が優美に絡み合う洗練されたアンサンブルが秀逸で、相変わらずヴィオラが叙情豊かにピアノに歌い添う好演を楽しめました。甘美な旋律が多い木管パートをヴィオラが担当していたことにもよるとは思いますが、それにしてもヴィオラのプレゼンスには目を見張るものがありました。第二楽章では幸福感に満ちたピアノと柔らかく優美な弦楽とが絡み合い、とても優しい音楽が耳に心地良く響きました。第三楽章ではピアノが滑舌よく軽快に立ち回り、これに弦楽がキビキビとフットワーク軽く呼応する快活な演奏が展開され、しかし、決して音が先鋭的になってしまうような勢いだけの演奏とは異なり、細部にまで神経の行き届いたデリカシー(肌理細やかな配慮や気品)を併せ持つ演奏が素晴らしかったです。なお、ピアノ・ソロ版は河合さんがCDをリリースされていますし、以前にもこのブログで紹介しましたが室内楽版は小倉貴久子さんがCDをリリースされていますので、お勧めしておきます。

http://d.hatena.ne.jp/bravi/20120403/p1

◆おまけ
ショパンのピアノ協奏曲第2番(六重奏版)より第二楽章

ショパンのピアノ協奏曲第1番(ピアノ連弾版)より第二楽章