大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

この世の名残 夜も名残 ~杉本博司が挑む「曾根崎心中付り観音廻り」オリジナル

【題名】ETV特集『この世の名残 夜も名残 〜杉本博司が挑む「曾根崎心中付り観音廻り」オリジナル〜』
【出演】
【放送】Eテレ 2011年10月16日(日) 22時〜
【感想】
皆さん、初詣はどちらに参詣されたのでしょうか。僕は日蓮宗大本山清澄寺(千葉県鴨川市)で初日の出を拝み初詣を終えた後、昨年開場した新しい歌舞伎座の正面玄関横にある歌舞伎稲荷神社へ詣でました。興行初日や千穐楽には歌舞伎役者や劇場関係者もお参りされるそうです。昔から「稲荷神社」では雅楽の調べに乗せて古式ゆかしい巫女舞が奉納されますが、歌舞伎は出雲大社の巫女「出雲の阿国」の踊りから「かぶき踊り」に発展して誕生したと言われていますので、歌舞伎座が稲荷神を氏神としているのは必然と言えるかもしれません。因みに、「稲荷」の語源は「稲成り」と言われ、稲荷神の神使である狐(歌舞伎の演目にも多く登場します)が稲を鼠から守ることから五穀豊穣、家内安全や商売繁盛などのご利益があると言われています。また、「稲荷寿司」の語源は狐(稲荷神の神使)が油揚げを好物にしていたことに由来していると言われていますが、甘く煮た油揚げの袋に酢飯を包んでいるのは狐が稲を鼠から守るという「稲荷」の語源を象徴するものかもしれません。なお、歌舞伎座の向いにある銀座白金やの稲荷寿司は大変に美味なので、是非、お近くにお寄りの際にはご賞味あれ。


左から、歌舞伎稲荷神社(彫刻のディーテイルが見事)、どこかで見覚えのあるお父さんのオイナリサンではなく有名な銀座白金やの稲荷寿司、荻生徂徠の旧家跡
http://www.platinumya.jp/index.html

少し話は飛びますが、人形浄瑠璃の傑作「仮名手本忠臣蔵」の題材となった赤穂事件において本懐を遂げた赤穂浪士は両国から隅田川沿いを南下して永代橋を渡橋し(その手前にある万年橋の袂に吉良邸討入りの8年前まで松尾芭蕉が住んでいた深川芭蕉庵があります)、江戸湊沿いをさらに南下して浅野家江戸上屋敷、築地本願寺の前を通り浅野匠頭が眠る泉岳寺へ引き揚げています。その途上、歌舞伎座の前を通過していますが、歌舞伎座のある一帯は幾重にも歴史が交錯している深淵な地層を持った由緒ある土地と言えるかもしれません。奇しくも昨年は新しい歌舞伎座の開場と併せて近松門左衛門の生誕300周年でしたが、人形浄瑠璃の傑作である近松門左衛門の「曽根崎心中」は江戸時代に上演を禁止されて以来昭和30年になって漸く原作の人形浄瑠璃ではなく歌舞伎で復活上演されたことを思うと不思議な縁で結ばれているのではないかと感慨を深くします。江戸時代には上演を禁止されていた「曽根崎心中」ですが、その作品は身分を問わず愛され続け、当時の御用学者だった荻生徂徠はその詞章(以下に道行の詞章を抜粋しますが、)があまりに美しかったので暗誦していたと言われています。なお、荻生徂徠千葉県茂原市で学んだ後に徳川吉宗の御用学者となり、赤穂浪士の処分議論において忠孝に報いる処分(助命)を主張した学者達に対して御政道を説いて法に従った処分(切腹)を主張した学者ですが、これを題材にした落語、講談、浪曲の「徂徠豆腐」も愛され続けていますので、こちらも存分にご賞味あれ。

道行

 此の世の名残 夜も名残 死に行く身を譬ふれば あだしが原の道の霜 一足づゝに消えて行く 夢の夢こそ あはれなれ

 あれ数ふれば暁の 七つの時が六つなりて 残る一つが今生の 鐘の響の聞き納め 寂滅為楽と 響くなり

浄瑠璃を読もう

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ところで、この「曾根崎心中」をニューヨークに住む現代美術作家、杉本博司さんが構成、演出、舞台美術、映像を手掛けてリメイクした杉本文楽「曾根崎心中付り観音廻り」が2011年及び2013年にマドリード、ローマ、パリで興業されて連日1000人を超える観客動員を記録して話題になりましたが、いよいよ本年3月に東京と大阪でこの舞台が再演されることになりました。近年、異ジャンルの芸術家が古典作品に現代的な息吹を吹き込んで、これまでとは違った魅力を古典作品に与える(又は惹き出す)と共に、これによって古典作品のオリジナルの魅力も再認識し、もって芸術受容の可能性、楽しみの幅を拡げようとする試みが盛んに行われていますが、(未だこの舞台を観ていませんが)この杉本文楽の試みは幸運な出会いであったと言えるのではないかと思います。

http://sugimoto-bunraku.com

因みに、杉本文楽の成功をウケて、映画監督の三谷幸喜さんが笑いと涙に溢れる人情喜劇として三谷文楽「其礼成心中」を公演し、こちらも話題になったことは記憶に新しいですが、未だご覧になられていない方はDVDがリリースされていますのでどうぞ。

三谷文楽「其礼成心中」[DVD] (PARCO劇場DVD)

三谷文楽「其礼成心中」[DVD] (PARCO劇場DVD)

さて、杉本博司が挑む新しい人形浄瑠璃文楽の制作舞台裏に密着したドキュメンタリー番組があったので、その感想を簡単に残しておきたいと思います。

感想を執筆中。続く。


◆おまけ
二代目広沢菊春の浪曲「徂徠豆腐」