大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

クラシックミステリー 名曲探偵アマデウス「メンデルスゾーン “真夏の夜の夢”」

今日11月24日は「オペラの日」だそうですが、明治27年(1894年)11月24日に東京音楽学校(現、東京藝術大学)奏楽堂において日本で初めてオペラ(演目はグノーの歌劇「ファウスト」)が上演されたことに由来するそうです。因みに、日本人による初めてのオペラ作品は、前回のブログ記事で触れた坪内逍遥が台本を書き、東儀鉄笛(早稲田大学の校歌を作った人)が作曲した歌劇「常闇」で、明治39年(1906年)に歌舞伎座で初演されています。ご案内のとおり坪内逍遥は江戸時代の勧善懲悪的な戯曲文学を否定して西洋の写実主義を基調とする近代小説を紹介するために西洋の“Novel”について論じた「小説神髄」を発表しています。また、坪内逍遥は今年生誕450周年を迎えたシェイクスピアの全集(因みに、今日の本題であるメンデルスゾーンの劇付随音楽「真夏の夜の夢」はシェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」を題材としています)を日本で初めて翻訳して西洋の演劇を日本に紹介すると共に、ワーグナーに対抗して日本の伝統的な演劇(歌舞伎舞踊)を改良して西洋的な対話劇とは異なる日本独自の舞踊劇(国民楽劇)を創始することを提唱した「新楽劇論」を発表して(この本の中で西洋の“Dance”の訳語として「舞踊」という言葉が使われ、ダンス(舞踊)のうち、特に日本の伝統的な舞踊を示す意味で「日本舞踊」という言葉が生まれます。)、小説及び演劇の近代化を試みています。その後、大正時代になって浅草オペラが生まれ、前回のブログ記事で触れた永井荷風が台本を書き、菅原明朗が作曲した歌劇「葛飾情話」が昭和13年(1938年)に浅草オペラ館で初演されています。これに続いて、昭和16年(1940年)に山田耕作が日本初となるグランドオペラ「黒船〜夜明け」を作曲し、平成20年(2008年)に新国立劇場で全曲初演されています(かく言う僕もこの全曲初演を聴きに行つています。)。なお、オペラ公演を担う日本の歌劇団として、昭和9年(1932年)にテノール歌手の藤原義江によって「藤原歌劇団」、昭和27年(1952年)に東京音楽学校(現、東京藝術大学)の出身者を中心に「二期会」が設立されて数多くのオペラ作品が日本初演されており、その後、「東京室内歌劇場」、「東京オペラ・プロデュース」や「新国立劇場合唱団」などプロ・アマを合わせて数多くの団体が設立されて現在のオペラ隆盛期を築いています。

坪内逍遥の考え方をベースに以下の相関関係を整理中。おそらく綺麗には整理できませんし、現代において、このような整理に拘泥することがあまり意義を持つものだとも思いませんが、曖昧模糊としたままに任せて明確なイメージ(但し、“定義”というほど厳密なものは持ち得ないとも思っていますが)を持っておかないと、メディアが氾濫し表現が多様化するなかで、何となく流行風俗に溺れて“消費”を繰り返すだけに終始し、その“創作”の本質的なところを捉え切れず、足元のおぼつかなさに苛まれる感覚に陥るような気がしてなりません。果てしなく続く。

▼日本の伝統的な演劇の分類
「能劇」
「歌舞伎劇」
「振事劇」(歌舞伎舞踊〜日本舞踊)

▼日本の伝統的な舞踊の分類
「舞」:神仏に奉納される神聖なもの(上半身の水平的な動き)
「踊」:人間が自ら楽しむ俗的なもの(下半身の垂直的な動き)
「振」:所作に劇的な意味を生むもの(“〜のふり”、振り付)
※ 基本的な整理としては「能楽」≒「舞」+「振」、「バレエ」≒「踊」+「振」と分類?
※能の舞台は客席よりも高い位置にあり、観客は舞台を見上げるように見物し、能役者の舞は客席のある下方へアピールする水平的な動きを特徴(その背景には日本は農耕民族であり、腰を屈めて地に足を着けたまま移動しながら上半身を使って田畑を耕し、作物を収穫することから、その舞は水平運動を基調とするようになり、その収穫の恵みをもたらす地(にある万物)を崇める思想を育む)。バレエの舞台は古代ギリシャの野外劇場に代表されるように客席よりも低い位置にあり、観客は舞台を見下ろすように見物し、ダンサーの踊は客席のある上方へアピールする垂直的な動きを特徴(その背景には西洋は狩猟民族が多く、獲物を追うために空を見上げ、矢を射て武器を振るいながら下半身を使って飛び跳ねるように獲物を追い駆けることから、その踊は上下運動を基調とするようになり、その狩猟の恵みをもたらす天(にある唯一無二の太陽)を崇める思想を育む)。

▼西洋の舞台芸術の分類
「歌劇」(Opera):音楽+舞踊(憧憬の美、理想主義的)
「楽劇」(Musikdrama)
「演劇」(Drama):台詞+仕草(人生の再現、自然主義的)


...続く。現在、執筆中。


剣舞(剣舞は日本舞踊以外にもハチャトゥリアンバレエ音楽「ガイーヌ」の最終幕の“剣の舞”等も有名)にも触れる予定。以前、兵法三大流派の1つ“念流”の流れを汲む小野派一刀流(後に北辰一刀流が分派)の始祖、小野忠明(千葉県南房総市出身、千葉県成田市領主)について触れましたが、千葉県との県境に位置する茨城県鹿嶋市は剣聖、塚原卜伝鹿島神宮の神官の子で、鹿島古流と香取神道流(香取神道流のジェダイの騎士たちです。日本最古の流儀と言われる香取神道流は鹿島新当流の基になった権威ある流儀で、その始祖である飯篠長威斎家直は香取神宮で剣法の奥義を極めたと言われています。因みに、ジョージ・ルーカス監督の映画「スターウォーズ」は黒沢明監督の映画の影響を受けて製作されており、例えば、ダースベイダーの黒マスクは武士の鎧兜をヒントに作られていることは有名です。)を学び、後に兵法三大流派の1つ“神道流”の流れを汲む鹿島新当流を創始)の出身地で、茨城県鹿島市から千葉県香取市の一帯を中心に神道流が受け継がれ歴史に名を刻む剣豪を数多く排出しています(因みに、兵法三大流派の最後の1つは柳生で有名を馳せた“陰流”です。)。そこで、武道と舞についても触れてみたいと思っています。

香取神道流に因んで、醤油の老舗キッコウマンの創業者は香取神宮(千葉県香取市)の氏子だったそうで、香取神宮の神紋「亀甲紋」の中に「鶴は千年、亀は萬年」という故事に肖って“萬”の文字を入れたものがキッコウマン(亀甲萬)ロゴマークになっており、大変にお目出度くキッコウマンの醤油を愛用していると長生きしそうです。なお、ビデオレンタルのGEO(ゲオ)ロゴマークも同社創業者の家紋である亀甲紋をイメージしたものです。更に脱線すれば、亀甲紋をモチーフにした亀甲文様は歌舞伎衣装のデザインとしてもお馴染みです。

今週末の紅葉狩り(2ケ所)の写真。正しく神のキャンバスと形容したくなるような奇跡的な美しさです。西洋の庭園はシンメトリーに調和された人工美で貫徹されていますが、これに対して日本の庭園は自然美と人工美とが絶妙に調和され、人工が自然の中へと溶け込んでいる一元論的な世界観を体現した芸術です。僕の拙いカメラの腕前ではその美しさや世界観の半分も切り取れませんが、本当に美しいものに触れたときの圧倒的な恍惚感に打ちのめされます。...(後で整理します)


【題名】クラシックミステリー 名曲探偵アマデウスメンデルスゾーン真夏の夜の夢”」
【放送】NHK−BSプレミアム
    平成21年7月19日(日)20時00分〜20時30分
【司会】筧利夫
    黒川芽以
    美保純
【出演】野本由紀夫(玉川大学教授)
    星野宏美(立教大学教授)
    千住明(作曲家)
    磯部周平(東邦音楽大学教授)
    NHK交響楽団(指揮:阪哲朗)
【感想】

...続く。現在、執筆中。

▼おまけ
ボロディンの歌劇「イーゴリ公」より「ポロヴェツ人(韃靼人)の踊り」(ポロヴェツ人(韃靼人)は遊牧民族)をお楽しみ下さい。人類の起源はアフリカで、「狩猟民族」(紀元前4万年頃に中欧で発祥、社交的・攻撃的..)、「農耕民族」(紀元前2万年頃に北欧で発祥、協調的・計画的..)、「遊牧民族」(紀元前1万年頃に中近東・アジアで発祥、個人的・行動的..)に分化し、各々の生活様式から生まれる民族的な特性の違いが文化面(舞踊のスタイルを含む)にも大きな影響を与えています。

ヘンデルハープシコード組曲第2番より第4曲「サラバンド」(サラバンドとは3拍子の荘重な舞曲のこと)をお楽しみ下さい。バロックダンスは西洋の宮廷舞踏(ヴェルサイユ宮殿の貴族が踊ったメヌエット、ガヴォット、シャコンヌサラバンド)のことで、バレエや社交ダンスのルーツになっています。映画「カストラート」でご存知のコビリオ監督がリュリの半生を描いた映画「王は踊る」の中でもバロックダンスのシーンが踏んだんに登場します。

チャイコフスキーバレエ音楽くるみ割り人形」より第14曲「パ・ド・ドゥ」をお楽しみ下さい。“(グラン・)パ・ド・ドゥ”とはバレエ用語で、プリマ・バレリーナ(最高位のバレリーナ)とダンスール・ノーブル(その相手役となる男性ダンサー)の二人の踊りのことで、この場面では金平糖の精(正確には洋菓子“ドランジェ”の精ですが、日本では一般に広く知られていなかったので“金平糖”の精という邦訳があてられました)と王子の二人の踊りが繰り広げられます。因みに、この舞台では英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに就任されていた吉田都さんがプリマ・バレリーナを務められています。

歌舞伎舞踊京鹿子娘道成寺」より抜粋。この歌舞伎舞踊安珍清姫伝説に題材した能「道成寺」をベースに生まれましたが、この歌舞伎舞踊には踊りの要素がすべて入っていると言われており、六代目尾上菊五郎がこの歌舞伎舞踊を指して「まだ足りぬ おどりおどりて あの世まで」という辞世の句を残しているほど奥深く華のある曲目です。“花の外には松ばかり、花の外には松ばかり 暮れ染めて鐘や響くらん..”という情景描写に優れた詞章で始まる長唄も耳に心地よく、昔の日本語が持っていた香気ある美しい響きや豊かな詩的表現力に憧れを覚えます。進歩主義に懐疑的な立場を採る僕としては、ある面で日本の文化は後退しているような気がしてなりません。