ぶらあび

ジャンルを超え、地域を超え、時代を超えて「時間芸術」(音楽、文学、話芸、香道…)、「空間芸術」(建築、彫刻、陶芸、絵画、書道、華道…)、「総合芸術」(舞踊、演劇、映画、茶道…)など芸術全般の感想を書き綴ります。(オススメ公演情報等はスマホ版で表示されないのでPC版でご覧下さい。)

利休にたずねよ

【題名】利休にたずねよ
【監督】田中光
【原作】山本兼一
【脚本】小松江里子
【音楽】岩代太郎
【出演】<千利休市川海老蔵(第11代)
    <宗恩>中谷美紀
    <織田信長伊勢谷友介
    <豊臣秀吉大森南朋
    <おさん>成海璃子
    <石田三成福士誠治
    <高麗の女>クララ
    <山上宗二>川野直輝
    <細川忠興袴田吉彦
    <細川ガラシャ黒谷友香
    <武野紹鴎>市川團十郎(第12代)
    <北政所檀れい
    <たえ>大谷直子
    <長次郎>柄本明
    <千与兵衛>伊武雅刀
    <古渓宗陳>中村嘉葎雄
【公開】2013年12月7日〜
【場所】成田HUMAXシネマズ
【感想】ネタバレ注意!
昨日から公開されている映画「利休にたずねよ」を観てきました。まるで一服の茶を点てられたときのように心が整えられ、久しぶりに自信を持ってお勧めできる映画に出会えたと思います。千葉県成田市の映画館で映画を鑑賞した後、少し時間があったので、近隣の千葉県香取市善光寺へ歌舞伎役者の(初代)松本幸四郎さん(1674年〜1730年、実事・荒事を得意とし、二代目市川團十郎と人気を分けた名役者)のお墓参りに立ち寄ってみました。東京都文京区の栄松院にも初代の墓碑がありますが、もともと初代は同市小見川町出身で、善光寺の墓碑の方が古いと言われていますので、こちらの方が由緒正しい(?)かもしれません。因みに、境内には恋の願いごとが叶えられると言われている「腹切様の碑」もあり、女性を中心に厚〜い信仰を受けています。なお、話は変わりますが、先日、博多に行った際に“明太フランスパン”で有名な辛子明太子の名店「しまもと」に立ち寄ったところ、当代の松本幸四郎さん、女優の松本紀保さん(長女)と松たか子さん(次女)のサイン色紙を発見しました。当代の舌にも適う辛子明太子のようですな。



上段は千葉県香取市善光寺。役者は死しても“華”がある存在、そんな思いを込めて赤い花を一輪添えました。下段は福岡県博多市の辛子明太子の名店「しまもと」

恋多き人生を腹切様にひとしきりお祈りした後、天気が良かったので、近傍の千葉県銚子市まで足を伸ばして屏風ヶ浦を探検することに。屏風ヶ浦は波の浸食によりできた延々10km(銚子市名洗町〜旭市飯岡刑部岬)にも及ぶ海岸の絶壁です。その雄大なスケールはドーバーの白い壁と双璧して見劣らないことから東洋のドーバーと言われている...と由緒書きにはあります。絶壁の高さは約60mほど(15階建相当)あり、その日の天候や時間帯によって屏風(壁面)は様々に景色を変え、晴天の空気が澄んだ夕焼け時には真紅に染まる神の屏風絵の美しさに息をのみます。もう少しカメラの腕前が上達したら夕焼け時の屏風ヶ浦の表情を撮りきりたいと目論んでいます。その後、お腹が空いてきたので、今が旬の魚“金目鯛”の刺身(東京では金目鯛の刺身を食す機会は少ないと思いますが)を贅沢に使った名物「キンメ丼」を食べるために、芸能人御用達(杉良太郎さん、田中邦衛さん、萬田久子さん、志村けんさん、桂米助さんなど)の店でも有名な銚子の魚料理「常盤」へ向かいました。銚子は金目鯛の宝庫として知られていますが、金目鯛の刺身は透き通るような身で臭みはなく、よく身が締まったぷりぷりとした食感で酢飯との相性が良く食欲のそそられる至福の逸品です。金目鯛が旬の季節(冬)は、特にオススメしておきます。
http://d.hatena.ne.jp/bravi/20130212/p1



上段は屏風ヶ浦。下段は左から2枚が飯岡の大鳥居とその向こう側に見える座頭市の住居跡(現在は海ですが、当時は浜で防波堤の先端辺りにあった出稼ぎ漁師用の小屋)、左から3枚目は飯岡灯台のロマンチックな夕陽..チュッ♥、左から4枚目が魚料理「常盤」の名物「キンメ丼」

さて、この映画は直木賞を受賞した山本兼一さんの小説を実写化したもので、これまでの千利休を題材とした映画とは少し趣きを異にし、伝記的叙事詩というよりは、いくつかのエピソード(フィクションを含む)を交えながら千利休が究めた茶の湯の道とは何なのかということに視線が注がれ、その茶の湯の道こそが千利休の生き方そのものに体現、結実されて行く様が丹念に描かれており、それが上に述べた観後感にも繋がっています。この映画は千利休豊臣秀吉の勘気に触れて切腹する当日の場面から始まり、その約20年前にフラッシュバックして織田信長との出会い、豊臣秀吉との葛藤、妻や師弟との関係など、千利休が本格的に茶道を志すことになる青年期から堺の三茶人と持て囃され、そして天下の茶道と呼ばれるまでに登り詰め、やがて黒樂茶碗に究まる千利休の茶道の極致が千利休切腹(死、即ち、究極の侘び)と共に描かれています。「私が額ずくのは美しいものだけ」という言葉を残して天下人、豊臣秀吉と袂を分かち、自らの美意識に忠実であろうとする千利休の茶人としての生き様の美しさに圧倒されます。(そう言えば、自らの創作意欲に忠実であろうと時の権力、スターリン政権に抗ったショスタコーヴィチの生き様が思い出されますが、思えば千利休ショスタコーヴィチも似たような境遇にあったと言えるかもしれません。)


http://www.rikyu-movie.jp/

この映画では千利休の為人とその茶の湯の精神を知るうえで欠かせないエピソードが幾つか出てきます。先ずは、千利休織田信長と最初に出会う場面。織田信長は堺の商人等から名物の品々を献上されますが、その席で千利休は一興を案じます。1つの漆塗りの箱を楚々と取り出し、その中へ筒に入った水を注ぎます。箱の内側には金箔で鳥と波の意匠が描かれていますが、その一杯に張られた水面に夜空に照る月を映して信長へ献上します(公式ホームページの動画「予告編vol.1」)。織田信長はこの風流な一興に大そう感じ入り、どんな名物の品々よりも価値あるものだと称賛して褒美を与えます。織田信長は既成の価値感に囚われず、物事の本質を見極めそこに独自の価値を見出して時代を切り開いて行った人ですが、千利休の美の本質を看破しその面白さに価値を認めます。その意味で織田信長千利休も自分自身の中に独自の価値基準を持った人であったことを端的に物語る大変に興味深いシーンです。また、千利休は寝室で梅の小枝が描かれた掛け軸に蝋燭の光で野鳥の影絵を映し、その景色の変化を“おもしろい”と楽しむ(遊ぶ)場面がありますが、「目で見る美しさ」ではなく、風情の中に美を探求しようとする「心に映る美しさ」(それを“おもしろい”と表現したのだと思います)を尊重する千利休の美に対する態度を描いた心に残るシーンです。(更に付言すれば、茶の湯の一席にあって、亭主と客がこの梅の小枝の掛け軸にどんな景色を心に描くのか、それが侘びの精神ではないかと個人的には思います。)

茶の湯の大事とは、人の心に叶うこと

千利休は弟子の宗二から茶の湯にとって大切なものは何かと問われ、上記のとおり利休が考える茶の湯の精神を語り諭します。「和敬清寂」と言い換えることができるかもしれませんが、これは利休の茶道でもあり生き方そのもの(信条)とも言えるかもしれません。上杉謙信との戦で柴田勝家の援軍に出向いた秀吉は勝家と対立して勝手に援軍を引き上げてしまったことから信長の換気に触れるという事件(史実)がありましたが、信長から切腹を申し渡されるかもしれないと気を病む秀吉が利休の茶室を訪ねます。千利休から茶懐石として茶粥を振舞われますが、その質素な腕を啜りながら百姓時代を懐古して出世栄達ばかりが人の幸せではないと悟り落涙します。利休は茶掛けにある「閑」の字(書体を含む)に込めた心を解いて、いまのような「静かな心」でいつでも茶室に足を運んで欲しいと心尽くしの一服の茶を点てます。茶を点てるとはどういうことなのか利休の茶の湯の精神の真髄に迫る名場面に感じ入りました。

千利休豊臣秀吉より遣わされた使者から秀吉に詫びなければ切腹は免れないと言い渡されますが、既に覚悟が定まっている千利休は心静かに「私が額ずくのは美しいものだけ」と言い残して末期の茶を点てます。千利休は、茶釜から松風の音(以下の和歌を参照)が響くなか、床の間を背にして静かに切腹し、その白装束の周りを真紅の鮮血が覆って末期の一席(利休が大成し、ここに極った侘び茶の道)に自らの生涯で花を添えます。もし千利休豊臣秀吉に額ずいていればその茶の湯の精神は死んでしまいましたが、千利休は自らが美しいと信じるものだけに額ずくことでその茶の湯の精神は永遠に茶道の中に生き続けることになります。茶の湯の道(美)のみに額ずいて見せた千利休の茶人としての生き様そのものが美しく、茶道に生きる人のみならずこの映画を観る全ての人の心を強く捉える映画だと思います。なお、詳しくは書きませんが、高麗の女性との秘事(フィクション)が描かれていますが、末期の一席を観ながら源氏物語に出てくる以下の和歌を思い出しました。皆さんはこの場面を観てどう感じますか。

変らじと 契りしことを 頼みにて 松のひびきに 音を添へしかな(源氏物語第十八帖「松風」第二章「明石の物語」第五段より明石の君の返歌)

なお、市川海老蔵さんの洗練された美しい所作や第12代市川團十郎さんの大きな役者と思わせる独特の存在感(風格)なども見処ではないかと思います。

◆おまけ
you tube”に映画「座頭市」(1989年)の映像がアップされていたのでリンクしておきます。時代考証が良く出来ていて、冒頭(03:43〜)に飯岡の大鳥居(上の写真)と漁師小屋が出てきますが、実在の座頭市の住居跡が忠実に再現されているかのようです。

お茶に因んで、映画「利休にたずねよ」に出演している中谷美紀さんが登場する伊藤園お〜いお茶「ぞっこん惚れちゃった篇」”のTVCMで使われているボロディン弦楽四重奏曲第2番第1楽章をボロディン弦楽四重奏団の演奏どうぞ。

お茶に因んで、金城武さんが出演していたジャワ・ティーの宣伝で使用されていたドビュッシー「夢」をチッコリーニの演奏でどうぞ。