大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

クラシックミステリー 名曲探偵アマデウス「ヴィヴァルディ“ヴァイオリン協奏曲「四季」”」

【題名】クラシックミステリー 名曲探偵アマデウス「ヴィヴァルディ“ヴァイオリン協奏曲「四季」”」
【放送】NHK−BSプレミアム
    平成24年1月4日(水)18時00分〜18時45分
【司会】筧利夫
    黒川芽以
    田畑智子
【出演】桐山建志(ヴァイオリン奏者)
    ダリオ・ポニッスィ(オペラ演出家)
    野本由紀夫(玉川大学芸術学部メディア・アーツ学科准教授)
【演奏】ベニス・バロック・オーケストラ
    <指揮>アンドレア・マルコン
    <Vn>ジュリアーノ・カルミニョーラ
【感想】
今日も撮り溜めていた名曲探偵アマデウスを紐解くことにします。ヴィヴァルディは約500曲もの協奏曲を残していますが、その中でも最もポピュラーなヴァイオリン協奏曲「四季」から「春」が採り上げられました。この曲の影響を受けてピアソラが「ブエノスアイレスの四季」を作曲した話は有名です。

ピアソラブエノスアイレスの四季」から「春」
http://www.youtube.com/watch?v=ONGkJW7jO1c&feature=results_video&playnext=1&list=PL7DD4F366E9544BDC
ピアソラブエノスアイレスの四季」から「冬」
ピアソラのライブ録音。演歌と一緒でタンゴも奏者によって音楽が生きもすれば死にもします。
http://www.youtube.com/watch?v=yBIooq8dhik

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」は三楽章形式で、第一楽章は“急”(Allegro−はやく陽気に)、第二楽章は“緩”(Largo−ゆるやか)、第三楽章は“急”(Allegro−はやく陽気に)と楽章間にメリハリを生む構成になっており、優れたエンターテイメント性を持っています。ヴィヴァルディは数百曲の協奏曲をこの形式で作曲し、協奏曲の新形式を確立しましたが、これは後世のハイドンモーツアルトベートーヴェンに多大な影響を与えています。また、ヴィヴァルディの協奏曲では唯一、ヴァイオリン協奏曲「四季」の楽譜だけに“ソネット”(14行からなるヨーロッパの定型詩)が添えられ、各々の季節の情景が歌われている点に特徴があります。

【楽譜】
http://imslp.org/wiki/Special:ImagefromIndex/05238
You Tube
http://www.youtube.com/watch?v=ItjhF5Kc1Lo&feature

◆第一楽章
「春」の第一楽章の15小節目には“Canto de gl’Vcelli”(小鳥たちの歌)という演奏記号が記され、以下のようなソネットが添えられていますが、音楽に言葉が添えられ言葉と音楽が有機的な関係性を持っていると言えます。また、この曲はリトルネッロ形式(リトルネッロ(合奏)−エピソード(独奏)−リトルネッロ(合奏)が繰り返される形式)が採用され、調性や強弱等は変わっても同じメロディーが奏でられるリトルネッロの間にエピソードを挿入することで、エピソードで展開される季節のドラマを印象付けるという音楽的な効果をあげています。

00:00〜
“春がやってきた”                  ・・・リトルネッロ
00:28〜
“小鳥たちが陽気な歌で春にあいさつする”    ・・・エピソード(13小節目、3挺のVNの囀り)
00:59〜
“(春がやってきた)”                ・・・リトルネッロ
01:06〜
“西風の息吹に泉は
優しくささやきながらあふれ流れる”      ・・・エピソード(19小節目、スラーが流れを模倣)
01:28〜
“(春がやってきた)”                ・・・リトルネッロ
01:34〜
“大気を黒いマントで覆いつつ稲妻と雷鳴が選ばれ”  ・・・エピソード
春の訪れを告げにやってくる”
02:00〜
“(春がやってきた)”                ・・・リトルネッロ
02:07〜
“嵐が静まると小鳥たちは
うっとりするような歌を再び奏で始める”       ・・・エピソード
02:44〜
“(春がやってきた)”                ・・・リトルネッロ

◆第二楽章(楽譜11ページ〜)
「春」の第二楽章は哀愁漂う雰囲気に一変し、ヴァイオリン(Tutti)が“葉ずれ”(Mormorio di Frondi, e piante)の音を、ヴィオラが吠える犬(Il Cane che grida)の鳴き声を模倣し、ゆっくりとしたテンポでソロヴァイオリンが羊飼いのまどろみを表現しています。

“そして花咲く心地よい野では
 草木の葉ずれの親しげささやきに
 牧者が忠実な犬を傍らにまどろむ”

◆第三楽章(楽譜16ページ〜)
「春」の第三楽章はまた華やかな曲想に戻り、チェロやチェンバロなど低音楽器がバグパイプの響きの真似をして楽しい踊りの雰囲気を盛り上げています。

“田園風バグパイプの陽気な調べに合わせ
 ニンフ(妖精)と牧者はお気に入りの場所で
 まばゆい春の訪れに踊る”

◆おまけ(「夏」)
「夏」は太陽が焼け付く厳しい季節、人も家畜の群れも気怠く、松の木は干上がっています。しかし、突然 北風が競うように吹き荒れ、嫌な予感が現実となって、天は雷鳴を鳴らし、雷を落とし、雹を降らせて、稲穂や誇らしげな麦の先を叩き落とします…そして、ため息のようなヴァイオリン。北イタリアの真夏の感覚、厳しい暑さと目まぐるしく変わる天気、弦楽器のトレモロで表現される嵐の情景が印象的な音楽です。耳から伝わってく情報だけではなく、楽譜を観ながら音楽を聴くと色々と発見できるものも多く、音楽の愉しみ方が広がります。“IMSLP”では楽譜が無料で閲覧できるので、(社会人だと楽譜を読んでいる時間はないと思いますが)自分が大切にしている曲だけでも楽譜を丹念に読み込んでみると面白いと思います。

ヴィヴァルディの時代にはアマティやストラドなどのヴァイオリンの銘器が誕生した頃で、ヴィヴァルディは時のローマ法王から絶賛される程のヴァイオリンの名手でした。それはヴァイオリンの機能や奏法を知り尽くし、最小限のフィンガリング、ボーイングで如何に最大限の音楽的な効果を得るかを考え抜いて書かれた楽譜を見ても分かります。このようにバロック時代には、未だ作曲家と演奏家の分離(及び演奏家と聴衆の分離)が進んでおらず、故に、バロック時代の楽譜には大凡の設計図が示されているだけで、その骨格に演奏家が即興(主に装飾音)で肉付けをして行くように作曲されており、現代のジャズやロックと同じように即興演奏(即興性が生む感興)が1つの大きな見せ場となっていました。亡くなられた(感じがしませんが)談志師匠が生前に“イリュージョン”という言葉を使っていましたが、これと同じような意味合いではないかと理解しています。決められた台詞を決められた順序で決められた通りに話すのではなく、噺家の内から溢れ出てくる“何か”(それは無手勝流という無責任なものではなく、芸を磨き抜いた末に得られる変幻自在の境地とでも言うべきもの)が語らせるもの、それが芸の生命力の1つになっているのだろうと思います。音楽も同じですな。

◆伝統的なクラシカルな演奏
http://www.youtube.com/watch?v=g65oWFMSoK0&feature
◆斬新なロック・テイストの演奏
http://www.youtube.com/watch?v=F3OVQPjk7nE&feature

以上のアナリーゼ(楽曲解説)を踏まえて、上記の解説(及び楽譜)を読みながらヴァイオリン協奏曲「四季」から「春」の音源を聴いてみて下さい。

▼第一楽章
ソネット“春がやってきた”に対応する
軽快なリトルネッロ
“小鳥たちの歌”
ヴァイオリン3台によるさえずり合い(00:28〜)
エピソードの間には必ず
リトルネッロが挟まれる(00:59〜)
“西風に泉があふれ流れる”
水面の揺れを合奏で表現(01:06〜)
“春の訪れを告げる雷鳴”(01:34〜)
“嵐が静まり再び鳥たちがさえずる”(02:07〜)
高らかに奏でられる
最後のリトルネッロ(02:44〜)

▼第二楽章
第二楽章は緩徐楽章
情感豊かに奏でられる
ソロヴァイオリンの後ろに(03:10〜)
“葉ずれのささやき”(03:06〜)
ヴィオラで奏でられる
“吠える犬”(03:06〜03:07...)
バロック時代は
即興演奏が常識
ジャズにも通じる
自由度の高い音楽

▼第三楽章
ヴァイオリンのトレモロで表される“激しい嵐”
華麗なヴァイオリンソロと(06:32〜)
力強いオーケストラの合奏
その鮮やかな対比が
ヴィヴァルディの作曲術
観客をひきつける
魅力にあふれた「四季」
今も新たな演奏が
生まれ続けている