大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

ストリートダンス/TOP OF UK

【演題】ストリートダンス/TOP OF UK
【監督】マックス・ギワ
    ダニア・パスクィーニ
【振付】ケンリック・サンディ
    ケイト・プリンス
    ウィル・タケット
【出演】ニコラ・バーリー(Carly)
    リチャード・ウィンザー(Tomas)
    ウクウェリ・ローチ(Jay)
    ジョージ・サンプソン(Eddie)
    ダイバーシティ(Diversity)
    フローレス(Flawless) ほか
【料金】TUTAYA新作レンタル1000円/5本
【感想】
先日、映画「フラメンコ・フラメンコ」、映画「ピナ・バウシュ 夢の教室」の感想を書きましたが、もう1本気になるダンス映画「ストリートダンス/TOP OF UK」をTUTAYA新作レンタル1,000円/5本で借りて観ることにしました。ストリートダンスは現代にあって風俗流行の一過性の享楽(消費行動)とは異なり、表現の独創性や再現性のある「スタイル」(時代と共に変化しても容易に廃れることのない確固とした表現形式、これを具備しているか否かが風俗流行と文化との違いの1つだと思います。)を持った文化と呼べるものだと思います。その意味で、ストリートダンスは現代の時代感覚にマッチした正しく現代に脈打つ新生の文化であり、次の時代に受け継がれて行くべき作品や時代の寵児となるような希代のダンサーの登場が待ち望まれます。丁度、“ダンス・ダンス・ダンス at ヨコハマ2012”が開催されていますので、ご近隣の方はお運び下さい。

http://dance-yokohama.jp/

さて、この映画はストリートダンス選手権で優勝を目指す若者達の成長を描く青春ラブストーリー風の陳腐な筋書きですが、振付はケンリック・サンディ(ストリートダンス)、ウィル・タケット(バレエ)、ケイト・プリンス(ダンス・カンパニー“ズーネーション”の創始者)が担当し、イギリスの人気ダンサーが多数出演しているのでダンスシーンはかなり見応えがあります。ストリートダンサーのカーリーは、恋人のジェイが率いるダンスチームでストリートダンス選手権優勝を目指して日々練習に明け暮れていましたが、突然、恋人のジェイが優勝候補チームに引き抜かれ、稽古場を確保することすら困難となるなどダンスチームの存続が危ぶまれる状況に陥ります。そんなある日、バレエ学校の教師ヘレナがバレエに情熱が感じられない自分の生徒をストリートダンスチームのメンバーに加えてストリートダンス選手権に臨むことを条件にバレエ学校のスタジオを稽古場として提供することを提案します。当初、全くジャンルが異なるストリートダンサーとバレエ学校の生徒達との間には深い溝がありましたが、ストリートダンスとバレエを融合した新しいダンスを生み出して行く過程でお互いの絆が芽生え、心を一つにしてストリートダンス選手権に臨むというサクセスストーリーです。ストリートダンサーがバレエ学校の壁をぶち破ってしまうシーンがありますが(いわばバレエ学校の壁は権威や既定概念を象徴するもの)、ジャンルの壁を打ち破り、自分の殻を打ち破り、新しい表現の可能性を広げて行くという象徴的な意味合いを持っていると思いますが、これがこの映画のテーマではないかと思います。ヘレナがカーリーをロイヤルオペラのバレエ公演に連れ出しますが、バレエの魅力を感得しながらもストリートダンスとの違い(壁)に拘泥するカーリーに対してヘレナがストリートダンスもバレエも表現形式の違いがあるだけで表現しようとしている内容に違いはないと諭します。ラストシーンのストリートダンス選手権ではストリートダンスにバレエのヴォキャブラリーを採り入れ、ストリートダンスの切れ味の良いアクロバティックな動き(デジタル的なフォルム)とバレエの優美な動き(アナログ的なフォルム)とが舞台に緩急を生んでいましたが、その一方で、2つの表現形式が完全には融合しておらずそれが煩く感じられるところもあり、既に表現形式が成熟しているクラシックとモダンの融合の難しさも同時に感じられました。歴史を振り返っても、あるジャンルの芸術は同時代の異なるジャンルの芸術の表現形式を少しづつ採り入れながら変化、改良を加えて新しい表現形式を生み出してきましたが、直ぐに実りを結ばなくてもこのような試みが継続して行われている状況が文化(創造)の活力を生む源泉になるのだろうと思います。

ストリートダンス/TOP OF UK スペシャル・エディション [DVD]
http://www.streetdancethemovie.jp/

◆おまけ
ロンドンオリンピックが開催中ですが、体操競技と見紛うばかりのアクロバティックな身体機能に高さには目を見張ります。

某社のCMで起用されていたのでご存知の方も多いと思いますが、いま世界的にも注目されている日本を代表するトロン・ダンスユニット“WRECKING CREW ORCHESTRA FAMILY”の演舞をどうぞ。http://wizarts.jp/

もう映像を探すのが面倒になってきたので、何の脈絡もありませんが、適当に、定番中の定番のグリーグの「2つの悲しい旋律」から「過ぎにし春」をどうぞ。

日本では滅多に演奏されないグリーグの「3つの主題のフーガ」がアップされていたので、こちらもご紹介しておきましょう。