大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

オーケストラ(原題:Le Concert)

【題名】オーケストラ(原題:Le Concert)
【監督】ラデュ・ミヘイレアニュ
【出演】アレクセイ・グシュコブ
    ドミトリー・ナザロフ
    メラニー・ロラン
    フランソワ・ベルレアン
    ミュウ=ミュウ
    バレリー・バリノフ
    アンナ・カメンコバ
    リオネル・アベランスキ
    アレクサンダー・コミッサロフ
    ラムジー・ベディア   ほか
【脚本】ラデュ・ミヘイレアニュ
    アラン=ミシェル・ブラン
    マシュー・ロビンス
【料金】TUTAYA 旧作レンタル100円
【感想】
今日は冷たい秋雨が降っていますが、やや薄着では肌寒く感じられます。最近、“人生で大切なことは雨が教えてくれた” という面白いタイトルの本を見付けて、近々、読んでみたいと思っていますが、昔の日本人は西洋のように生活と自然を分けて考える二元論的な世界観とは違って、生活と自然を不可分のものとして考える一元論的な世界観を持ち、生活の中に自然を採り込んで暮らしてきました。現代の日本の街はアスファルトと人工物で覆われて自然から隔絶された環境にあります。この点、昔の日本人は生活の中に身近に自然を感じて暮らしていましたので、例えば、日本語には雨でも「春雨」「五月雨」「翠雨」「梅雨」「夕立」「時雨」「白雨」「秋雨」「氷雨」「凍雨」など人間の気分と同じくらい様々な種類(呼び方)があり、非常に繊細に自然の表情を感じ取っていたことが分かります。このほかにも日本語には雲や風などでも様々な種類(呼び方)があり、これらを知っているだけでも都会に暮らしながら自然の表情を敏感に感じ取ることができるようになると思います。現代の日本人はパソコンを器用に操ることができても、昔の日本人のような花鳥風月を愛でる風流心や感受性、想像(創造)力が貧困になりツマラナイ民族になってしまったように感じます。

人生で大切なことは雨が教えてくれた

さて、少し前に映画館で観た「オーケストラ(原題:Le Concert)」という映画をTUTAYAの旧作100円レンタルで借りて観てみたので、その感想を簡単に残しておきたいと思います。音楽関係の映画は作曲家や楽曲に妙なイメージがこびりついてしまうので伝記もの以外は観ないことにしていますが、前評判が良かったので暇潰しに観ることにしました。フランス映画だけあって随所にウィットの効いたユーモアが散りばめられており、テンポの良いストーリー展開と相俟って最後まで飽きることなく楽しめました。主人公は、ボリショイ管弦楽団の元指揮者でブレジネフ政権を批判したことから指揮者を解任させられ、いまはボリショイ劇場の清掃係として働いています。ある日、ボリショイ劇場の支配人室を清掃していたところ、パリのシャトレ座から送られてきた出演依頼のファックスを盗み出し、主人公とボリショイ管弦楽団の元団員で急拵えのオーケストラを編成してシャトレ座の公演を成功させるという些か陳腐なサクセスストーリです。この種の映画で気になるのが楽器を演奏するシーンですが、出演者はしっかりと基礎的な訓練を積んでいるようで、妙な楽器の構え方等から生まれる違和感は然程でもありませんでした。シャトレ座の演奏会でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏するソリストの女性は両親とは事故で生き別れたと聞かされて育てられましたが、実は主人公が指揮するボリショイ管弦楽団と共演したことがあるヴァイオリニスト(ブレジネフ政権を批判してシベリアの収容所で死亡)の息女で、この演奏会後に全ての秘密を悟るというサスペンス仕立ての結末になっており、これがストーリーに変化を生んでダレさせません。この映画の原題は「Le Concert(協奏曲)」で、協奏曲は奏者が協力して奏でる究極のハーモニーであるという趣旨の台詞が何度か出てきますが(いつも書くことですが、邦題は映画のテーマを無視してキャッチ―なコピーを付けたものが多く関心しません)、このソリストはヴァイオリニストであった母の楽譜を使って演奏することで、このソリストを媒介して母であるヴァイオリニスト、指揮者である主人公とボリショイ管弦楽団の元団員との間で再び(あの日の)ハーモニーが奏でられ、奏者と観客は大きな感動に包まれる(奏者と観客との間でもハーモニーが生まれる)という大団円になりますが、少し出来過ぎた嘘臭さが鼻につきます。なお、青臭いことを書くようですが、この映画のクライマックスのように指揮者、オーケストラ、聴衆、そして作曲家の心が一つになっていると感じられる演奏会というものは実際にあるもので、僕も何度かそういう経験をしています。そのときの心震えるような感動は生涯忘れえぬ大切な財産になっており、それだけで死床にあって自らの人生を悔いることはないような気がします。もう十分過ぎるほど美しいものに触れ、沢山の感動を心に刻んできましたから。と、人生を達観したような生意気なことを書きながら、ソリスト役のメラニー・ロランの美しさに参っています。僕もこんな美女とオデコをゴッツンコしてみたいものです…。

オーケストラ! スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

◆おまけ
映画「オーケストラ」の演奏会のプログラムをお楽しみ下さい。
チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー 弦楽セレナーデ

チャイコフスキー 弦楽四重奏曲第1番(映画ではプロコフィエフの曲が演奏されることになっていますが、どの曲か指定されていなかったのでチャイコフスキーから適当にもう1曲…)

確か今日はピアニストの小林愛実(あいみ)さんの誕生日。外は冷たい秋雨が降っていますが、一字違いの小林麻美(あさみ)さんの代表作 “雨音はショパンの調べ”に掛けてショパンの曲をどうぞ。