ぶらあび

ジャンルを超え、地域を超え、時代を超えて「時間芸術」(音楽、文学、話芸、香道…)、「空間芸術」(建築、彫刻、陶芸、絵画、書道、華道…)、「総合芸術」(舞踊、演劇、映画、茶道…)など芸術全般の感想を書き綴ります。(オススメ公演情報等はスマホ版で表示されないのでPC版でご覧下さい。)

NHKスペシャル「新生 歌舞伎座 檜(ひのき)舞台にかける男たち」

【題名】NHKスペシャル「新生 歌舞伎座 檜(ひのき)舞台にかける男たち」
【放送】NHK総合テレビ
    平成25年5月5日(日)21時00分〜21時45分
【感想】
皆さんご案内のとおり諸事情により、GW期間中も演奏会や舞台、展覧会などへは足を運べず、千葉の農村へ引っ越してきたことを奇貨として、自宅近傍で名所旧跡など土地の歴史を訪ねたり、季節を運ぶ草花や野鳥を観察したり、神が創り給うた至高の芸術作品である自然の美しい瞬間を写真に切り取ったりと自然散策に興じ、何もせずに「無為に過ごす」という贅沢な時間の使い方をしていました。


左から、�荻生徂徠の旧家跡、�旧家跡近くにある徂徠の母の墓

千葉県茂原市に江戸時代の有名な儒学者である荻生徂徠が青年期に勉学に勤しんだ旧家跡が残されています。徂徠は著書「政談」の中で旧家での生活が彼の人間形成上で重要な意味を持っていたと自ら語っているとおり、徂徠の学者としての礎は茂原で暮らしていた時代に養われたものです。徂徠と言えば、元禄時代に発生した赤穂浪士の吉良邸討入事件において、室鳩巣らの賛美論に対し、「若し私論を以て公論を害せば、此れ以後天下の法は立つべからず」と断じて私情に流されず法に則って切腹を主張したことで有名です。個人的には赤穂国際音楽祭で何度か赤穂へ足を運んでいるので心情的には赤穂浪士贔屓ではありますが、もし赤穂浪士の吉良邸討入事件が許されるとすれば、ヤクザ抗争におけるお礼参りも同様の理屈で許されてしまうことになり、やはり徂徠の論が冷静で成熟した正論であったと思います。なお、古典落語、講談や浪曲に当時の赤穂浪士の処罰議論を題材にした「徂徠豆腐」という演目がありますが、この内容を見てみると江戸の庶民は比較的理性的に受け止められていたことが伺えます。

徂徠は貧しい青年時代に空腹のために豆腐を無銭飲食してしまうが、豆腐屋は「出世払い」ということで許してくれた。その後歳月が流れ、大学者になった徂徠は赤穂浪士の吉良邸討入りの翌日にその豆腐屋が大火で焼け出されたことを知って見舞金を贈る。しかし、豆腐屋は赤穂浪士切腹をさせた徂徠からの施しは受けられないと断る。それに対し、徂徠は「貧しい青年時代に豆腐を無銭飲食した自分を「出世払い」にして許してくれた。法を枉げずに情をかけてくれたから今の自分がある。自分も法を枉げずに赤穂浪士に最大の情をかけた。武士を見事に散らせるのも情のうち。」と法の道理と武士の道徳を説いた。これに納得した豆腐屋は見舞金を受け取る。豆腐屋が赤穂浪士切腹と徂徠からの見舞金をかけて「先生はあっしのために自腹をきって下さった」というオチがつく粋な話。

浪曲「徂徠豆腐」

講談「徂徠豆腐」

さて、昨日、NHK総合テレビで新歌舞伎座の杮葺落公演までのドキュメンタリー番組が放送されていたので、簡単に概要を残しておきたいと思います。なお、私事で恐縮ですが、今秋、僕が勤めている会社が歌舞伎座タワーへ入居する予定になっており、色々な意味で興奮し過ぎて鼻血が止まりませんので、このブログにも鼻血の跡を残しておきたいと思います。歌舞伎タワーは「耐震」「免震」「制震」と高い耐震性能を備えているらしく、大震災が来ても心丈夫です。


(注)あくまでもイメージ図です。似ていますが、実物ではありません。
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0505/

◆緞通
新歌舞伎座の大間には皇居やバチカンにも使われている色鮮やかな高級織物「緞通」が敷かれています。この図柄は京都・平等院鳳凰堂中堂母屋の方立に描かれている菱形文様をモチーフにしたもので、そこに描かれている4羽の鳥は「咋鳥(さくちょう)」と呼ばれ、22種類以上の色染めされた羊毛の1本1本を職人が「手刺し」することで組み合わせた絶妙なグラデーションが深い味わいを生んでいます。思わず靴を脱ぎたくなる美しさですが、緞通は踏まれることで深い味わいが増してきますので、職人の至芸に経緯を払いながら丁重に踏み締めて歩きたいものです。

◆三洲瓦
新歌舞伎座の大屋根に職人技で造られた精密で独特な風合いの三洲瓦約10万枚が敷き詰められて圧巻です。日本における瓦の起原は飛鳥寺造営(596年)と言われていますが、1700年頃から良質な三河粘土と船便搬送に恵まれた三洲で瓦産業が発達し、吸水率が低く凍害にも強い三洲瓦は100年以上も持つといわれています。なお、歌舞伎座正面の唐破風屋根の上には歌舞伎座で最大となる重厚な鬼瓦が設置されていますが、この鬼瓦は「経の巻」と呼ばれ、3つの円筒形の装飾がお経の巻物に見立てられたことに由来していています。

◆音響
新歌舞伎座の音響は、サントリーホールミューザ川崎シンフォニーホール大阪新歌舞伎座をはじめ、国内外の数多くのコンサートホール等の音響設計を手がけた株式会社永田音響設計が担当。天井に反響板を設置し、直接音が観客席に到達してから0.05秒で反射音が観客席に到達するように設計されていますので、明瞭で豊かな残響効果が得られます。劇場は木とコンクリートが乾燥し本当に良い音で響くようになるまでに約20年かかると言われていますので、これから新歌舞伎座の音響がどのように熟成されて行くのか楽しみです。

◆檜
新歌舞伎座の檜舞台に使われる檜板は、神奈川県丹沢山中で採取した1200本の「百年檜」(初代歌舞伎座開場の明治22年頃に植えられたもの)が使われています。檜の特質は、耐久性、柔軟性、そして油を多く含むことから滑らかで“さわり”が良く、また、1年3ケ月間は天日、さらに1週間は遠赤外線乾燥機で乾燥するために歪んだ音がせず、歌舞伎の舞台向きと言われています。

◆回り舞台
メリーゴーランド製作会社の三精輸送機株式会社が直径18.18m、深さ約16.5mと国内最大の大きさの「廻り舞台(盆)」を製造しました。松・竹・梅の3種の迫りに加えて、今回は「大迫り」が新設され、より多様でダイナミックな舞台転換が可能になりました。オペラハウスが歌舞伎座の回り舞台を真似て導入した話は有名です。

◆緞帳
日本画家の上村淳之さんが緞帳の原画を作成し、緞帳の向って右から冬、春、夏、秋の季節の移ろいを表現した図柄になっているそうです。その図柄を刺繍で1日で10cmづつ織り込んでいったそうです。実際の舞台でご確認下さい。

◆意匠
新歌舞伎座は株式会社三菱地所設計と隈研吾建築都市設計事務所による共同設計で、新・根津美術館などの設計も携わった隈研吾建築都市設計事務所が意匠・デザインを担当しています。新歌舞伎座では "時間の継承" をテーマとされているとおり、歴代の歌舞伎座の優美な趣を承継しつつ、最新の機能を備えたオフィス棟との今昔の調和が図られています。

中村吉右衛門播磨屋
「鏡台は化粧をしながら徐々に役に成り切って行く役者にとって神聖な場所」と語っていましたが、能役者が鏡の間で能面をつけることで何ものかが自分に憑依(顕在)する感覚になるのと同じく、白粉を塗り顔を作って行く過程は自分の中から自我を締め出して別の人格を創り込んで行くような精神的作用を伴うものなかのかもしれません。

尾上菊五郎音羽屋)
「キメ台詞は自分があんまり気持ちよくなるとダメ」と語っていましたが、これは歌舞伎だけでなくクラシック音楽にも同様のことが言えます。カラヤンは「自分が興奮する指揮は三流、自分が冷静で楽団員が興奮する指揮は二流、自分も楽団員も冷静で観客が興奮する指揮は一流」という言葉を残していますし、世阿弥は「離見の見」という言葉を残していますが、観客を頂く再現芸術においては自分の舞台に溺れないことが殊更に重要なことなのかもしれません。

片岡仁左衛門松嶋屋
「役になり切るのか、役を演じるのか」..自分の演技は役になり切って時に感情を移入するスタイルだと語っていましたが、尾上菊五郎さんの演技に対する考え方が少し異なるのかもしれません。感情を移入せず型を重んじて演技を組み立てる様式主義的な考え方は極端だと思いますが、果たして演技にあたってどこまで感情移入すべきなのかその塩梅は難しいと思います。昔、映画「ドラゴン・キングダム」で功夫の極意として「型を学んで、型を追わず」という言葉が出てきましたが、仁左衛門さんが目指している演技は自らの感情も自在に操って行く変幻自在の境地、役に溺れるのではなく、役を完全に我物にするということなのかもしれません。

坂東玉三郎(大和屋)
「昔、歌舞伎は昼間にやっていたので、デザインされた照明ではなく、芝居がしっかり見えることが基本」..その意味で歌舞伎の照明は柔らかさと広がりが重要と語っていましたが、主役にスポットライトを浴びせて主役を大きく見せるという意味で歌舞伎はオペラに近い性格を持った舞台芸術と言えるかもしれません。一方、能は夜の薄明り(昼の薄暗がり)で演じられることが多く、「闇」(闇によって人間の感性が研ぎ澄まされてイマジネーションが膨らむ作用)が生み出す舞台芸術と言えるとかもしれませんが、その意味で、歌舞伎(オペラと同様に主役が観客へアピールして行くプラスの芸術)と能(できずるだけ無駄なものを削ぎ落として観客の内面を引き出して行くマイナスの芸術)は似て非なる性格を持っており、日本の伝統芸能の懐の広さを感じさせます。


http://d.hatena.ne.jp/bravi/20120414/p1

今週のニューズウィーク日本版に歌舞伎の特集記事が掲載されています。新歌舞伎座が落成し、世代交代が進んだ歌舞伎界の現在をレポートする内容で、これから歌舞伎界が向おうとしている方向性を示唆する興味深い記事です。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2013年 5/14号 [歌舞伎新時代]

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2013年 5/14号 [歌舞伎新時代]

なお、一部のランチパックマニアの間で待ち望まれていましたが、遂に、あのランチパックに新歌舞伎座の落成を記念した「豆大福風(ホイップクリーム入り)歌舞伎座厨房監修」が登場しました。パン生地の中の赤い豆あんは「隈取り」を、これをサンドする白いホイップクリームは「白粉」をあしらったものではないかと推察しますが、ホイップクリームはあまり主張し過ぎることなく、豆大福の控え目な甘さが口の中に上品に広がるバランスの良いアダルトテイストの癖になる美味しさです。


http://www.yamazakipan.co.jp/lunch-p/shop/index.html
ランチパック・フリークのメッカ「ランチパックSHOP」では珍しいご当地ランチパックもゲットできます。

◆おまけ
まだ観に行っていませんが、近く機会があったら観に行きたいと思っています。

ダンスとのコラボが実にマッチしていて面白いです。様々なクロスカルチャーな試みを見てきましたが、これはハッピーな巡り合わせだと思います。

デザートをどうぞ。