【目次】
“狩野派の祖” 狩野正信(1434年〜1530年)千葉県いすみ市出身
◆狩野正信の碑(千葉県いすみ市)“浮世絵の祖” 菱川師宣(1618年〜1694年)千葉県安房郡鋸南町出身
◆菱川師宣記念館(千葉県安房郡鋸南町)
“浪の伊八” 武志伊八郎信由(1751年〜1824年)千葉県鴨川市出身
◆“浪の伊八”の生誕地(千葉県鴨川市)
◆行元寺旧書院(千葉県いすみ市)
◆称念寺(千葉県長生郡長南町)
◆飯綱寺(千葉県いすみ市)
◆太東崎(千葉県いすみ市)
◆いすみ市郷土資料館(千葉県いすみ市)
【概要】
今日「海の日」は1876年に明治天皇が東北巡幸を終えて横浜港に帰港した7月20日を記念した国民の祝日でしたが、(祝日が宗教とは結び付いていない日本ならではの)ハッピーマンデー制度によって節操なく今年は今日15日が「海の日」となりました。その「海の日」に因んで、西洋文化(音楽や絵画)に多大な影響を与えた日本文化という切り口で、千葉が生んだ天才宮彫師“波の伊八”こと武志伊八郎信由を中心として、同じく千葉が生んだ“浮世絵の祖” 菱川師宣や“狩野派の祖” 狩野正信(京都の人かと思っていましたが、千葉の人だったんですね。)まで時代を遡り、これら千葉ゆかりの芸術家を育んだ土地を訪ね、その作品に触れることで、中近世日本文化萌芽のダイナミズムを感じてみることにしました。そろそろ子供たちは夏休みですが、夏休みの自由研究として“郷土が生んだ芸術家”を採り上げ、その作品に触れてみるのも良いかもしれません。
◆“狩野派の祖” 狩野正信(1434年〜1530年)千葉県いすみ市出身
【狩野正信の碑(千葉県いすみ市)】
いすみ鉄道上総中川駅の近隣にある狩野正信の生誕地に記念碑が建てられています。なお、今秋、いすみ鉄道を採り上げたNHK−BSドラマ「菜の花ラインに乗りかえて」が放映される予定なので楽しみです。写真は本多忠勝の居城であった大多喜城を背景に小谷松駅から大多喜駅へ向かういすみ鉄道を撮影したものですが、いすみ鉄道の沿線には地方ローカル線の風情を湛えた鉄道マニア垂涎の撮影スポットが多く残されています。
地図:http://yahoo.jp/xx_-vr
◆“浮世絵の祖” 菱川師宣(1618年〜1694年)千葉県安房郡鋸南町出身
なお、菱川師宣美術館の近くに、千葉にゆかりの日本画家、東山魁夷や酒井亜人を初めとした現代アートの作品を数多く展示している金谷美術館があります。
【菱川師宣記念館(千葉県安房郡鋸南町)】
菱川師宣記念館前には師宣の代表作である浮世絵「見返り美人図」の彫像があります。一見、涼しげに見える「見返り美人図」ですが、こうして立体的にして観ると師宣の大胆なデフォルメに気付きます。師宣が故郷保田の寺社に寄進した梵鐘で、第2次世界大戦の金属回収令により滅失しましたが、それを復元したものです。
地図:http://yahoo.jp/yCeAMm
◆“浪の伊八” 武志伊八郎信由(1751年〜1824年)千葉県鴨川市出身
いくつかの作品解説、葛飾北斎及び西洋文化(音楽、絵画)への影響と模倣について書きます(現在、執筆中。続く。)
葛飾北斎に多大なインスピレーションを与えて「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を生み出す切っ掛けになった“波の伊八”の傑作である行元寺旧書院の欄間「波に宝珠」を観たときの興奮が未だに覚めません。フランスに「一枚の絵は百の言葉を語る」という諺がありますが、正しくこの作品の前に立つと、様々なインスピレーションが溢れ出してくるような感覚に襲われます。真の芸術は時間を超越すると言いますが、作品が持つ永遠の生命力、圧倒的な存在感に打ちのめされるような思いです。
【“浪の伊八”の生誕地(千葉県鴨川市)】
現在は小学校裏手の墓地になっていますが、丁度、この辺に浪の伊八が生まれ育った生家があり、その後ろの水田のあたりに工房を構えて、小さい作品は工房で、大きな作品は現地に泊まり込みで創作に没頭したと伝えられています。
地図:http://yahoo.jp/rP0NDP
【行元寺旧書院(千葉県いすみ市)】
行元寺旧書院欄間「波と宝珠」は行元寺に隣接する旧書院(客間)にありますが、これは表面で裏から見ると葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」を彷彿とさせる図柄になっています。
地図:http://yahoo.jp/Vb8gzy
【称念寺(千葉県長生郡長南町)】
称念寺本堂欄間「龍三態」ですが、いつも本堂のガラス戸には鍵が掛けられているのでガラス越しにしか拝見できません。これだけの作品を埋もれさせておくのは口惜しく(仮にこの欄間が個人又は団体の所有物であるとしても、法が体現する価値を超越し、その芸術的な価値は現在及び将来の人類にとっての資産でもあると思います。)、千葉県が助成するなどして一般公開すると共に、作品の痛みが激しいので早急に必要な修復を施すなど適切な作品の保存に努めるべきではないかと痛感します。
地図:http://yahoo.jp/xkK50x
【飯綱寺(千葉県いすみ市)】
飯綱寺本堂欄間「天狗と牛若丸」と「波と飛龍」があります。牛若丸と言えば、源頼朝が石橋山の戦いで敗れて真鶴岬【1】から舟で落ち延びてきたのが鋸南町竜島【2】(菱川師宣記念館の近く)なので、千葉には頼朝に縁の場所が多いです。因みに、この近くに太東崎灯台と僕の隠れ家“cafe GAKE”もあります。
地図:http://yahoo.jp/SS9Lbj
【太東崎(千葉県いすみ市)】
“浪の伊八”は「波と宝珠」を創作するにあたり馬で太東崎の海に入って浪を模写したと言われています(波が砕ける瞬間をご覧下さい。伊八も北斎も波が砕ける瞬間を粒さに観察したはずです。)。因みに、この近くに飯綱寺と僕の隠れ家“cafe GAKE”もあります。なお、以前、このブログで「くも」や「あめ」などを意味する漢字にも色々な種類があると書きましたが、「なみ」も同様で「波、浪、濤(涛)、瀾」と種類と豊富です。「波」は波全般を指す広い意味を持ち、「浪」は海よりも川の波、「濤(涛)」は大きな波、「瀾」は勢いのよい大きな波、「漣」はさざなみを示すそうなので、その作風からは“瀾の伊八”と呼ぶべきなのかもしれません。現代の日本人はアスファルトに固められた自然とは隔絶された人工の街で生活していますが、昔の日本人にとって自然は生活の一部であり、自然の繊細な表情の違いを敏感に感じ取ることができる豊かな感受性を持っていたのかもしれません。
地図:http://yahoo.jp/oeKcSn
【いすみ市郷土資料館(千葉県いすみ市)】
“浪の伊八”を初めとする数々の作品を真近に拝見することができるので(入館無料)、作品の生命力、息吹を身近に感じることができます。欄間「波に鯉」が展示されていますが、鯉なので海ではありませんが、すべり落ちるような川の流れの勢いとその流れが様々に表情を変化させる様子を繊細かつ滑らかな曲線で見事に表現しています。
地図:http://yahoo.jp/mBMg4x
芸術を理解するということはその時代や土地を理解することに他ならず、同じ時代の異なるジャンルの芸術に触れ、その芸術が育まれた「水」に馴染むことが芸術を理解することにつながると思います。今後も芸術家又はその作品にゆかりの土地を訪ねて紹介する「時の旅人」をシリーズとして続けて行きたいと思っています。先ずは、僕が住む千葉県を中心として、徐々に全国(世界)の芸術が育まれた土地の歴史を訪ね、時代を旅していきたいと思っています。
【番外編】
平成25年10月9日(水)22時〜 BSプレミアム
いすみ鉄道(千葉県いすみ市)を採り上げたNHK−BSドラマ「菜の花ラインに乗りかえて」が放映されます。いすみ鉄道の沿線には地方ローカル線の風情を湛えた鉄道マニア垂涎の撮影スポットも多く残されていますので、ドラマと共に景色もお楽しみあれ。
http://www.nhk.or.jp/chiba/nanohana/index.html
この季節は樹木や雑草が鬱蒼と生い茂って風情がありませんが、菜の花が咲く季節は色とりどりの春の花に彩られ(左から1枚目:春先は桜のトンネルから出てくるいすみ鉄道、左から2枚目:春先は菜の花に覆われるいすみ鉄道)、さながらいすみ鉄道が春の香りを運んできてくれているような風情を湛えています。一番右の絵は片岡鶴太郎さんがいすみ鉄道とドラマのイメージを絵にしたものですが、まるでいすみ鉄道が菜の花の香りに包まれているようで、いすみ鉄道や(おそらく)ドラマのイメージを本当によく表現されていると思います。カメラを片手にいすみ鉄道のぶらり旅で春の風情(これからの季節は秋の風情も楽しみ)を堪能されてみてはいかが。
◆おまけ
「海」に纏わる音楽を何曲かご紹介しておきましょう。
ドビュッシー(1862年〜1918年) 交響詩「海」
ラヴェル(1875年〜1937年) 組曲「鏡」より“海原の小舟”
エルガー(1857年〜1934年) 歌曲「海の絵」