大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙ブログのリンク、引用や転載などは固くお断りいたします。※※

平成24年新春浅草歌舞伎「南総里見八犬伝」

【題名】平成24年新春浅草歌舞伎
【演目】南総里見八犬伝
     富山山中の場
     大塚村庄屋蟇六内の場
     円塚山の場
【出演】<庄屋蟇六/犬山道節>市川亀治郎 
    <金碗大輔/簸上宮六>市川男女蔵
    <網干左母二郎>中村亀鶴
    <犬塚信乃>中村歌昇
    <犬村大角> 坂東巳之助
    <蟇六娘浜路>中村壱太郎
    <犬田小文吾>中村種之助
    <犬坂毛野>中村米吉
    <犬江親兵衛>中村隼人
    <下男額蔵実は犬川荘助>坂東薪車
    <伏姫>市川春猿
    <蟇六女房亀篠>坂東竹三郎
    <犬飼現八>片岡愛之助
【収録】浅草公会堂 平成24年1月19日11時00分〜
【放送】WOWOW(平成24年2月25日18時〜)
【感想】
今年刊行200年を向えた滝沢(曲亭)馬琴の長編読本「南総里見八犬伝」を採り上げてみたいと思います。先日、“佐倉義民伝”(東山桜荘子)を紹介しましたが、次回に紹介する“切られ与三郎”(与話情浮名横櫛)と併せて、千葉に所縁のある歌舞伎の人気演目の1つです。



上段左から、1〜2枚目:里見家のお家騒動(1533年、天文の内乱)で敗れた里見義豊勢の最後の拠点となった滝田城跡の本丸跡。物語はこの滝田城を居城とする里見義実が安西影連に攻められるところから始まりますので、ここが南総里見八犬伝発祥の地とされています。3〜4枚目:遠見山の山頂にある里見義実の愛犬八房と伏姫のモニュメント及び朱色の展望台。物語では里見義実が八房に対して安西影連を討ち取れば伏姫を娶らすと約束し、これに従って八房が安西影連の首級を持ち返って伏姫を富山へ連れ去りますが、その場面の彫像です。5枚目:養老寺の開祖、役行者の石造が祀られている岩屋。物語では伏姫が役行者から108個の数珠を授けられますが、そのうち8つの珠に「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が浮かんでいました。
下段左から、1〜3枚目:伏姫籠穴(1枚目の右上にあるのは犬塚)。籠穴の前に設えられた八角形の踊り場で加藤洋一さんの歌劇「伏姫」の初演が行われています。物語では八房に連れ去られた伏姫が籠っていた洞穴で、ここで伏姫が最後を迎えたときに8つの珠が飛び散り八犬士が誕生します。4枚目:富山山頂にある八犬士終焉の地。細く曲がりくねった急斜面の山道を車で山頂まで登っていきましたが、運転に自信がある方でも歩いて登られることをお勧めします。発見士きどりで気前よく車で登っていきましたが、後悔しきりの難所続きで僕にとっても終焉の地になってしまうところでした..。物語では里見家の危機を救った八犬士は里見義実の八人の孫娘をそれぞれ娶り、その後、子供達に家督を譲ってからは富山山中へ姿を隠して仙人になるという結末です。


南総里見八犬伝の受容について書きます。続く。




上段左から、1〜2枚目:里見頼義が築城した館山城とその天守閣から臨む館山湾。物語では滝田城の里見義実を攻め、八房に討ち取られた安西影連の居城です。3枚目:館山城にある八賢士の墓。里見忠義は1614年に安房9万石から伯耆鳥取県倉吉市)3万石へ国替えとなり、里見忠義に最後まで仕え、主人の後を追って殉死した8人の家臣達の法名に“忠義”を意味する「賢」の文字がついていることから“八賢士”と呼ばれるようになり、これが物語の“八犬士”のモデルになったと言われています。昔から犬は主人への忠義に厚く、八賢士の忠義に掛けて「賢」を「犬」に準えて物語を創ったのかもしれません。また、里見忠義の名前に対するオマージュにもなっています。丁度、今年は南総里見八犬伝刊行200年に加えて、里見忠義が伯耆へ国替えになってから400年にあたる記念年です。4枚目:館山城に植えられている里見桜。館山城は桜の名所としても知られてしますが、この里見桜は鳥取県倉吉市群馬県高崎市(里見氏は上野国桑名町の出身)及び千葉県館山市の有志で植樹したものです。写真は季節外れの枯れ木になっていますが、西行の和歌にあるように春を忘れて咲かない桜はありませんので来年の春まで夢を咲かせて待ちたいと思います。「今さらに 春を忘るる花もあらじ やすく待ちつつ 今日も暮らさむ」(山家集西行
下段左から、1〜3枚目:里見義堯と里見義豊とが争った犬掛合戦の古戦場跡、里見義豊の墓所、八房の生誕地にある八房と狸の塚。物語では八房は狸に育てられたという設定になっています。4枚目:館山城内にある八犬伝博物館に陳列されている南総里見八犬伝の読本。


里見家について書きます。安房一帯を平定し、里見家の内紛や北条、武田、上杉、織田、豊臣、徳川や佐竹といった有力な戦国大名の中で乱世を勝ち抜いてきた里見家の波乱に満ちた家史はドラマ性に富んでおり、NHKの大河ドラマで採り上げられることは間違いないでしょう。続く。




上段左から、1〜2枚目:柳生新陰流と並んで徳川将軍家の剣術指南役であった小野派一刀流の開祖、小野忠明の生誕地(千葉県南房総市)。南総里見八犬伝発祥の地であり物語の舞台にもなっている滝田城跡(千葉県南房総市)の直ぐ近くにあり、その墓碑は永興寺(千葉県成田市)にあります。物語では犬塚信乃が剣の達人、赤岩一角先生から剣術指南を受けていたという設定ですが、ここから着想を得たのかもしれません。因みに、小野派一刀流は山岡鉄舟を輩出し、坂本龍馬が江戸留学で門弟となった北辰一刀流北辰一刀流の始祖、千葉周作は千葉氏の末裔)が分派しています。また、千葉には極真空手発祥の地があり、文武共に優れた土地柄と言えます。3〜4枚目:偶々(“玉”の掛詞ではありません❤)ですが、JR内房線木更津駅西口駅前にある狸のオブジェ。物語では八百比丘尼妙椿は里見義実に殺された玉梓の怨霊が八房を育てた狸に憑りついて化身したものという設定になっていますが(八房も里見義実に殺されていますので、玉梓の怨霊と八房の育ての親である狸の怨念が八百比丘尼妙椿に化身したと言えるかもしれません。)、近傍にある狸囃子の童謡で有名な證誠寺(千葉県木更津市)の狸囃子伝説に着想を得たのかもしれません。なお、この狸ほど立派ではありませんが、僕も心には8つの珠(徳)を、亦には2つの珠(玉)を持っています❤❤ 因みに、俗謡「たんたんたぬき」は米国のバプテスト教会ロバート・ローリー牧師が創った讃美歌の替え歌だそうで、些か不慎ではあります。
下段左から、1〜4枚目:證誠寺の境内と童謡碑、狸塚。

滝沢馬琴の長編読本「南総里見八犬伝」刊行200年を記念して、色々な公演が企画されています。正月に国立劇場2015初春歌舞伎公演「通し狂言 南総里見八犬伝」(五幕九場)が開催されましたが、今後も以下のような公演が予定されています。

【お知らせⅠ】
2014年8月30日(土)に道の駅ローズマリー公園内のシアターホールにおいて歌劇「伏姫」(出演:ソプラノ加藤千枝さん、バリトン加藤洋一さんほか)が公演されます。滝沢秀明さんが主演したTVドラマ「里見八犬伝」や薬師丸ひろ子さんが主演した映画「里見八犬伝」でご覧になられたことがある方も多いと思いますが、ファンタジックな舞台に仕上げられているようなのでお楽しみに!

【お知らせⅡ】
2014年10月31日(金)から新国立劇場(中劇場)及び梅田芸術劇場等で脚本家の鈴木哲也さんが書き下ろし、映画監督の深作健太さん(御尊父は映画「里見八犬伝」の監督、故・深作欣二さん)が演出を努める舞台「里見八犬伝」が公演されます。なお、12月6日(土)の千穐楽南総里見八犬伝の所縁の地である千葉県南総文化ホールで公演されます。

◆夏休みの課題図書が終わっておらず、泡(“安房”の掛詞)を噴いているお子様向けに。原作の面白さそのままに、凡そ30分で南総里見八犬伝の物語の世界を味わえます。8つの珠に込められた儒教の教え“徳”を中心に感想文をまとめると先生のハートをワシヅカミにできるかもしれません。

マンガ「南総里見八犬伝」(電子書籍)

◆脱線ついでに、大脱線!地元で話題騒然!!南総里見八犬伝フリークには絶対に見逃せない伏姫のご当地キティ―が登場しました。


さて、ブログの枕が長くなりましたが、そろそろ本題を書きたいと思います。


感想を書きます。続く。



http://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/2012/01/post_82-Printout.html

◆おまけ
麗しき里見の姫君、ジャズヴァイオリニストの里見紀子さんが演奏されるラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」のジャズアレンジバージョン。里見紀子さんは横浜市金沢区出身だそうですが、里見家との所縁があるのか否かは分かりません。もう一人の里見の姫君、伏姫へのオマージュとして亡き王女のためのパヴァーヌをアップしておきます。