大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。

【訃報】作曲家&ピアニストのニコライ・カプースチン

7月2日、8つの演奏会用練習曲などジャジーな超絶技巧曲で人気を博した作曲家&ピアニストのニコライ・カプースチンが亡くなりました。僕がカプースチンの曲を初めて聴いたのは、2008年8月にカワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」における「カプースチンの饗宴」と題する演奏会でしたが、当時、カプースチンの曲が演奏会で採り上げられる機会は皆無に等しく(その意味で、パウゼでは非常に意欲的で面白い企画の演奏会が開催されることが多く)、これまでに聴いたことがない全く新しい音楽に接した興奮が鮮やかに蘇ってきます。爾来、クラヲタの悲しいサガとして、ピアノの鉄人・アムランの音盤(この人なかりせば今日のカプースチン人気はなかったと言っても過言ではない)、カプースチンの自作自演盤やレアな輸入盤などを貪欲に蒐集する羽目になりましたが、その後、カプースチン弾きの川上昌裕さんによる世界初録音などがリリースされるようになり、それに伴って演奏会で採り上げられる機会も増えてきたことを頼もしく感じていました(上記の演奏会のピアニストが演奏前のMCで上手く演奏できるか分からないと素直な心境を吐露していましたが、当時、アムラン等の一部の凄腕を除いてカプースチンの難曲を弾き熟せる人はいなかったと思います)。来月には、輸入盤を含めても非常に珍しい録音「チェロ協奏曲第1番」がリリースされるなど、いよいよ、これからカプースチンの楽曲の真価が広く認識、評価されて本格的な脚光を浴びようという矢先の訃報に接し、本当に残念でなりません。
 
カプースチン ピアノ音楽の新たな扉を開く

カプースチン ピアノ音楽の新たな扉を開く

  • 作者:川上 昌裕
  • 発売日: 2018/08/26
  • メディア: 単行本
 
予てから、個人的に、今日のクラシック音楽界の低迷傾向(演奏会場への来場者数は微増しているように見えても先行きの展望が開けない閉塞感なようなもの)は、産業革命によって作曲家と演奏家の分化が進んでしまったことに遠因しているのではないかと感じることがありますが、カプースチンは作曲家としてもピアニストとしても超一流の芸術家であるという意味で、現代においては稀有な才能ですし(一時はジャズピアニストとしても活躍)、これからのクラシック音楽界の可能性を示唆する存在としても注目していましたので、返す返すも残念です。衷心より、ご冥福をお祈り致します。
 
最後に、ピティナ・ピアノ曲事典に掲載されている動画なので適正に著作権処理が行われていると思いますが、カプースチンの代表作である8つの演奏会用エチュードOp.40から第1番前奏曲をアップしておきます。