ぶらあび

ジャンルを超え、地域を超え、時代を超えて「時間芸術」(音楽、文学、話芸、香道…)、「空間芸術」(建築、彫刻、陶芸、絵画、書道、華道…)、「総合芸術」(舞踊、演劇、映画、茶道…)など芸術全般の感想を書き綴ります。(オススメ公演情報等はスマホ版で表示されないのでPC版でご覧下さい。)

相対性理論と無調音楽(宇宙の音楽から量子の音楽まで...)<STOP WAR IN UKRAINE>

▼創造性とイノベーションの世界週間(ブログのまくら)
本日は、レオナルド・ダ・ヴィンチの570回目の誕生日ですが、彼は芸術家(絵画、音楽、演劇、彫刻など)のみならず科学者(解剖学、数学、工学、天文学など)としても偉大な功績を残す「万能の天才」と称され、ヘリコプター自転車の原理を発明するなど芸術と科学の分野を超えた創造性の象徴として毎年4月15日から4月21日までの間は「創造性とイノベーションの世界週間」とされています。イノベーションと言えば、某ファミレスでは、コロナ感染予防対策及び労働力不足解消のために系列店舗に配膳ロボットの導入を進めているそうですが、先日、自宅の近所のファミレスにもネコ型の配膳ロボット「BellaBot」が導入されました。店内で複数台が同時に稼働していますが相互に通信を取り合いながら鉢合わせしないような効率的な動線を考えて移動し、(色々なシチュエーションを試してみましたが)顧客への衝突を回避する安全機能にも問題はなさそうなので子供同伴でも安心です。パンデミックによって第一次世界大戦後から国際社会を牽引してきたアメリカニズムの脆弱性(即ち、①グローバル社会の脆弱性ジェット機やクルーズ船等による国境を越えた人流増加に伴う感染拡大、②グローバル経済の脆弱性半導体の供給不足などサプライチェーンの機能不全に伴う経済混乱、③リベラル・デモクラシーの脆弱性:感染抑制を優先する多数者の意志(デモクラシー)が自由行動を優先する少数者の意志(リベラル)を抑圧する社会分断など)が露呈していますが、ポスト・コロナ時代を牽引するネオアメリカニズムの旗手と目されているGAFAが実現するデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、これらの脆弱性を克服するためのニューノーマル(人的交流のオンライン化、サプライチェーンの柔軟化、社会選択肢の多様化など)として機能することが期待されており、さらに、これに伴うデジタルツイン(アナログなリアル空間とデジタルなバーチャル空間のパラレルワールド)の誕生は人工知能(AI)や人工生命(AF)を社会へ採り入れるための前提となるものです。この点、産業革命(近代)は人類を重労働から解放しましたが、AI革命(現代)は人類を労働そのものから解放すると期待されており、人類や生命の再定義が必要となるような非常に大きな社会的影響を及ぼすイノベーションと言えます。一昨年、河野大臣(当時)が印鑑廃止を宣言して日本のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が始まったことは記憶に新しいですが、コロナ感染対策等を契機として数多くのイノベーションが実用化されており、その意味ではポスト・コロナ時代は時代の分岐点となり得るもので、歴史上、イノベーション(主に科学技術)と共に発展してきた芸術(創造性)にも大きな影響を及ぼす可能性があるのではないかと期待しています。
 
わたしは人類(人類の進歩)
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イノベーション(主に科学技術)と舞台芸術(創造性)の関係
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ローマ帝国(中世):宗教と科学・芸術の結合
2022年2月20日に北京五輪が閉幕しましたが、その原形であるオリンピアは紀元前800年代に古代ギリシアでオリンポス信仰(オリンポス12神の信仰)のためのスポーツと芸術の祭典として開催されたと言われており、その間は古代ギリシャで勃発していた都市国家間の戦争が中断されたと言われています。その後、392年に古代ギリシャを征服したローマ帝国キリスト教を国教に定めてオリンポス信仰の祭典であるオリンピアを廃止しますが、1896年にオリンピアの精神を受け継いだオリンピックが再開されました。その憲章には「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探究するもの」であり「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」という理念が謳われていますが、2022年2月24日、ドーピング問題でオリンピックへの出場を停止されていたロシアの大統領プーチンは、再び、この理念を踏み躙るようにポピュリズムの台頭によりアメリカニズムが弱体化している隙をついてウクライナへの侵攻を開始しました。この点、第二次世界大戦中の日本の教訓を踏まえれば、ロシア政府のプロパガンダに加担するロシアのマスコミと共にこれに踊らされる数多くのロシア国民にも大きな問題と責任があることは指摘しておかなければなりません。そこで、イノベーション(主に科学技術)が芸術(創造性)に影響を与えてきた歴史を大まかに俯瞰しながら、その底流にある思想的な背景を紐解いて環境破壊やポピュリズムの台頭など現代の社会問題を生んでいる原因について簡単に触れると共に、現在、どのようなイノベーション(主に科学技術)が芸術(創造性)に影響を与えようとしているのか時代のトレンドを概観したいと思います。さて、紀元前6世紀に古代ギリシャの数学者・ピタゴラスは音階の研究から宇宙の万物は数によって規定されているという考え方を生み出して「三平方の定理」や「ピタゴラス音律」を発見し、また、「天球の音楽」(天動説を前提として、地球を中心に運行している天体は音を発し、それらの音が宇宙全体で調和している)という神秘的な仮説を唱えて、後年、これに着想を得たJ.シュトラウスワルツ「天体の音楽」を作曲しています。この考え方に影響を受けた古代ギリシャの哲学者・プラトンが音楽は宇宙の調和だけではなく人間の調和も生むという考え方から天文学と共に音楽を重要な学問と位置付けたことにより、後年、音楽がリベラル・アーツの1科に加えられています。なお、リベラル・アーツは古代ギリシャの学問に起源を持ちますが、ローマ帝国キリスト教を国教に定めると、聖書の読解に必要な学問として「言語」に関連する3科目(文法、修辞学、弁証法)及び宇宙に隠されている神の真理の探究に必要な学問として「数学」に関連する4科目(算術、幾何学天文学音楽)の自由7科に整理され、そのうえに哲学及び神学が位置付けられました。その後、ルネサンス天文学者ケプラーは惑星運動の三法則(惑星の軌道が真円ではなく、楕円であることなどを発見しています。なお、星々が行きつ戻りつ不思議な動き方をして惑っているように見えることから「惑星」と命名されています。)を発見し、その著書「宇宙の調和」で惑星の動きには音楽的な調和があると主張して惑星の動きを音階にした「惑星の音楽」を創作しています。後年、ヒンデミットは、ケプラーを主人公とする歌劇「世界(宇宙)の調和」を作曲し、その冒頭で「惑星の音楽」から地球の音階を使用していますが、その後、この曲を交響曲「世界(宇宙)の調和」に編曲しています。このように宇宙の万物は数によって規定され、その宇宙を調和させている音楽も数からできていると考えられていたことから、演劇や文学等を扱う「言語」ではなく算術や天文学等を扱う「数学」(但し、未だ自然科学と呼べない自然哲学)の1科と位置付けられました。
 
ケプラーが惑星の動きを音階にした「惑星の音楽」
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※左上から順に、土星木星、火星、地球、金星、水星、月(人間の肉眼で確認できる5つの惑星、地球及び衛星)
 
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ルネサンス(近世):宗教と科学・芸術の距離(但し、未だ宗教と未分離)
西洋では、中世の精神革命によって宗教と芸術が結び付いて発展しましたが、十字軍遠征の失敗や宗教革命(聖職者しか理解できないラテン語ではなく民衆が理解できる母国語に翻訳された聖書が民衆に流布される契機となった印刷技術の発明)に伴ってキリスト教会の権威が失墜し、また、十字軍遠征により古代ギリシャからイスラムへ伝わって発展していた自然哲学が西洋に持ち込まれたことで近世のルネサンスが勃興します。ルネサンスでは、「神秘」(神の真理)から「科学」(自然法則の発見)が重視されるようになり、科学と芸術の結び付きが強まりますが、依然として科学的な探究はキリスト教における神の真理を知ることであると考えられており科学的な探究とキリスト教における神の真理との間の整合が求められていたという意味で宗教と科学が未分離の状態にあり、未だ宗教が科学の足枷(例えば、キリスト教の教義では人間が住む地球が宇宙の中心であるという考え方に基づいて天動説(地球中心主義)を採用していましたが、この教義に反して地動説(太陽中心主義)を唱える学者等は異端尋問に掛けられて火刑に処されたなど)になっていました。このような時代の潮流のなかで、ダヴィンチはキリスト教によって禁じられていた解剖学キリスト教では死者の復活を信じて死体を損傷することを禁じており、そのために火葬ではなく土葬が一般的でした。罪人を火刑に処していたのは死体を損傷して罪人を復活させないためであり、その文脈から罪人の死体に限って解剖も認められていました。キリスト教文化圏でゾンビのような映画の着想が生まれたのも、このような文化的な背景があると思われます。)や光学建築学などを学び、それらの研究成果は西洋絵画の写実性、遠近感や空間表現などに活かされ、その後、カラヴァッジョの光と影を使った明暗法を特徴とする写実主義への流れを作ります。更に、その光の扱いは印象派にも影響を与えています。また、ダヴィンチは機械工学にも精通しており(ヘリコプター印刷機などの原理を発明)、「ヴィオラ・オルガニスタ」(チェンバロのように弦を爪で引っ掻き又はピアノのように弦をハンマーで叩いて音を出すのではなく、オルガンのような動力機構を備えて回転する毛で弦を擦って音を出す楽器)や「機械式自動演奏太鼓」を発明しています。また、ジョルジョ・ヴァザーリ著「芸術家列伝」によれば、ダヴィンチは楽器演奏の名手として即興演奏も行ったそうですが、残念ながら、当時は即興演奏を記譜する習慣がなかったので楽譜は残されていません。上述のとおり、中世には宇宙の調和を生む音楽(教会旋法)と天体を結び付けて捉えており(例えば、ダヴィンチの肖像画音楽家の肖像」のモデルではないかと言われているルネサンスの音楽家・ガッフーリオの著作「音楽実践」では、ドリア旋法:太陽、ヒポドリア旋法:月、フリギア旋法:火星、ヒポフリギア旋法:水星、リディア旋法:木星、ヒポリディア旋法:金星、ミクソリディア旋法:土星、ヒポミクソリディア旋法:恒星天球(古代ギリシャの仮説の星)と結び付けて解説しているなど)、教会旋法の移旋は天体間の移動を意味しており宇宙の調和に乱すものとして行われてきませんでしたが、ルネサンスの作曲家・ジョスカン・デ・プレ聖歌「深き淵より」(詩篇第130番)でドリア旋法(太陽)からフリギア旋法(火星)への移旋を行って、キリスト教の教義を伝える音楽のための教会旋法(信仰:不動)から人間の情感を表現する音楽のための和声法(情感:流動)へ移行する先鞭となっています。また、過去のブログ記事に書いたとおり、モンテベルディがキリスト教の教義を伝えることよりも人間の情感を表現することを重視してキリスト教会から忌避されていた不協和音の解放に踏み出すなど芸術が宗教の足枷を外す試みが盛んになりました。なお、ルネサンスの哲学者・ベーコンは「知は力なり」という言葉で人間の知性の優位性を説いて近代科学の知識による自然の制御を主張しますが、この背景にはキリスト教的な自然観(例えば、旧約聖書創世記第1章の26から29及び創世記第9章の1から6など)が色濃く反映されていると言われています。即ち、神は、人間と自然を創造し、人間のみを神の姿に似せたことから、人間のみが神聖性を備え(自然は神聖性を備えていないという意味でアニミズムの否定)、ゆえに人間は自然の一部ではなく自然よりも優位な立場に置かれており、自然を制御(搾取)できるという人間中心主義的な考え方(人間と自然を区分する二元論的な世界観)があり、それが近代科学やアメリカニズムなどにも影響を与えて現代の社会問題を生んでいる遠因になっているのではないかと考えられています。
 
 
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▼科学革命+啓蒙思想(近代):宗教と科学・芸術の分離
上述のような時代の潮流を受けて、キリスト教の教義が宇宙を含む全世界の規範であるという考え方(聖書に記されている神の言葉を真理の根拠とする態度:スコラ哲学)に対し、科学と宗教を分離するべきであるという立場から科学も宗教の足枷を外す試み(自然の観察や実験の結果を真理の根拠とする態度:自然科学)が活発となり、1543年、コペルニクスは著書「天球の回転について」でキリスト教の教義に反する地動説を発表します。その後、ガレリイが望遠鏡を使った天体観測によって地動説の正しさを実証しますが、ガレリイはキリスト教会の異端審問で有罪判決(但し、1983年にローマ教皇庁が無罪判決に変更)を下されて地動説の撤回を宣誓させられたうえ、軟禁生活を強いられました。また、1687年、ニュートンケプラーが発見した惑星運動の三法則を科学的に説明するために著書「プリンキピア」で運動の三法則や万有引力の法則などニュートン力学古典物理学)を発表したことなどが契機となって実証主義による近代科学の礎となる第一次科学革命が興り、後年、第二次科学革命と言われる相対性理論量子力学など現代物理学へと飛躍的に発展します。それまで真理は神に属するもの(聖域)として聖職者のみが独占してきましたが(「神-人間-自然」という神聖な三項関係)、真理は人間に属するものとして誰もが取り扱うことができるもの(「人間-自然」という世俗的な二項関係)へと変化しました。このような科学革命を契機として近代科学及び近代哲学(自然観察から自然の法則性を発見し、その知識を使って自然を支配するという帰納法的な考え方を示したベーコンの経験論や、自然は一定の法則性に従って動いている機械のようなもの(機械論的自然観)であって、人間が制御(搾取)できるという演繹法的な考え方を示したデカルトの合理論)が確立し、宗教権威による封建社会を背景としてキリスト教的な世界観を妄信していた人々に自然科学に基づく真理を教えて知的に解放することで、人間、社会や国家のあり方を根底から問い直すという啓蒙思想が生まれ、市民革命の原動力となりました。やがて啓蒙思想の影響による自然科学の普及に伴って科学と宗教が分離され、科学が宗教の足枷から解放されます。例えば、上述のとおりキリスト教の教義では神は人間のみを神の姿に似せたということになっていますが、ダーウィンは著書「種の起源」で生物は環境に適応して進化する生物であるという学説(進化論)を提唱し、人間と猿が同祖同根であることを解明してキリスト教の教義と真正面から衝突しています。このように、歴史上、何度も繰り返されているイノベーションによるパラダイムシフトによって芸術も大きく変容しています。例えば、精神革命を契機として宗教と芸術が結び付き、ローマ帝国によるキリスト教の国教化に伴って旧約聖書詩編の朗誦が聖歌へと発展しましたが、西暦6世紀頃にローマ法王グレゴリウス1世がそれらの聖歌をまとめてグレゴリオ聖歌を編纂し、これに基づいて教会旋法が整備されたことによりキリスト教会の権威が強められています。当初、グレゴリオ聖歌単旋律(モノフォニー)で歌われていましたが(単旋律:神-人間の二項関係を音楽的に反映)、西暦9世紀頃にキリスト教会の残響が音楽に深みや厚みなどを増す効果があることを発見して多旋律(ポリフォニーで歌われるようになります(多旋律:神-教会-人間の三項関係を音楽的に反映)。その後、過去のブログ記事で書いたとおり、十字軍遠征の失敗や宗教革命によるキリスト教会の権威失墜に伴うルネサンス勃興や科学革命を背景として、キリスト教の教義(来世)を伝えることよりも、人間の情感(現世)を表現することを重視し、より情感豊かな音楽表現を可能とするために多旋律(ポリフォニー)に楽器の和声伴奏を添える通奏低音が発達します(通奏低音:神の外存性、多旋律:人間の他律的な主体性という音楽構造から神-人間の二項関係を音楽的に反映)。更に、啓蒙思想の影響から宗教と芸術が分離されて宗教曲から世俗曲が中心になると、言葉が聞き取り難い多旋律(ポリフォニー)を使わずに劇的な情感表現を可能にするために楽器の和声伴奏を添える単旋律(ホモフォニー)を使うようになり機能和声が発達します(和音伴奏:神の内在性、旋律:人間の自律的な主体性という音楽構造から神は人間意識に内在(調和)しているという近代的自我(個人主義)の確立=宗教的権威の消化を音楽的に反映)。
 
イノベーションと音楽様式の変遷イメージ
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産業革命+資本主義(近現代):科学・技術と芸術の結合
19世紀、産業革命及びそれを契機とした資本主義経済の発展に伴って、科学(サイエンス:自然現象の原理等を探求して体系化された理論で、数学・物理学・化学・生物学・天文学等から構成)の知見を社会活動(経済・医療・文化・生活等)に実用化するための技術(テクノロジー:科学理論等を実用化するための方法・手段)の発明や開発が活発になり、これによって技術と芸術が結び付いて今日的な発展の礎となります。第一次科学革命では、ニュートン力学(粒子の物理学)及びファラデーの電磁気学(波の物理学)の発見によって古典物理学が完成します。ファラデーが電磁誘導の原理を発見しますが、これは電動機(モーター:電磁力による回転運動)や発電機(ダイナモ:電気エネルギーの生成)だけではなく(現代の火力発電、水力発電風力発電又は原子力発電は、ファラデーの電磁誘導の原理が応用されています。)、音を電気的に録音及び再生するための技術(音と電気を相互に変換する技術)にも利用され(ミュージック・コンクレートの流れ)、その後、日本のDENONがデジタル録音機を開発します(電子音楽テクノポップへの流れ)。因みに、エジソンは難聴であったことからピアノの音を聴き取るためにピアノの蓋に触れてみたところピアノの音が振動として伝わってくることを発見し、その振動を地震計のように記録することやそれを音として再生することができるのではないかと着想して音を機械的に録音及び再生するための円筒式蓄音機を発明して、ブラームスが自作自演した「ハンガリー舞曲第1番」のピアノ演奏を録音したものが世界で最初のレコードと言われています。その後、ベルリナーが音を機械的に録音及び再生するための円盤式蓄音機「グラモフォン」を発明して、後のレコ―ドプレーヤーの原型になりますが(ヒップホップ音楽(スクラッチ)の流れ)、それを製造及び販売するために設立された会社から後のRCA、EMI、DG(ドイツ・グラモフォン)のレーベルが誕生します。また、アメリカの音楽賞「グラミー賞」の名前は円盤式蓄音機「グラモフォン」から採られており、その受賞者に手渡されるトロフィーは円盤式蓄音機「グラモフォン」が象られたものです。また、ファラデーは半導体素材(硫化銀)を発見しましたが、ベル研究所はこれを利用してトランジスタ半導体、LSI)を発明し、その後、ラジオ、テレビやコンピュータなどへ発展します(DTM、スペクトル音楽の流れ)。なお、過去のブログ記事第一次世界大戦を契機とするイノベーション(社会体制、価値観や科学技術等の変革)によってクラシック音楽が調性システムから解放されて現代音楽へと発展して行く過程を歴史的に俯瞰したので割愛しますが、現代の社会問題を生んでいる原因について簡単に触れると共に、それらの時代状況を踏まえ、現在、どのようなイノベーション(主に科学技術)が芸術(創造性)に影響を与えようとしているのか時代のトレンドを概観してみたいと思います。
 
 
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アメリカニズムの弱体化とネオアメリカニズムの再定義
二度の世界大戦を通して世界経済及び世界秩序の中心がイギリスからアメリカへ移行しますが、これに伴ってアメリカはフォードシステムに象徴される大量生産・大量消費を可能にする製造業中心の産業構造の優位性を活かして世界経済を席捲します。このような時代背景から、ヨーロッパの社会は腐敗した一方でアメリカは「公正」(フェアー)な社会を実現したという優越意識が生まれ、「アメリカニズム」(①文明観:二度の世界大戦でヨーロッパ文明は崩壊したことからアメリカが文明の先導者であるという意識、②宗教観:ヨーロッパではキリスト教が堕落したことからアメリカがキリスト教の伝道者であるという意識、③政治理念:イギリスは貴族社会の伝統からイギリス人と植民地人を差別する不完全な自由しか保障していないが、アメリカは貴族がいない大衆社会であり、完全な「自由」(リベラリズム)と「平等」(デモクラシー)を保障しているという意味で自由の体現者であるという意識)が浸透します。しかし、資本主義経済の成熟に伴うポスト工業化社会(製造業から金融業、情報産業へ産業構造の転換)、ネオリベラリズム市場原理主義の浸透による経済格差)及びグローバリズム自由貿易の浸透による新興国の優勢)の影響からアメリカの大衆社会における経済格差が拡大し、白人中間層(大衆)が没落して行きます。このような状況のなか、アメリカのネオリベラリズム新自由主義)はエリートを優遇し、アメリカのデモクラシー(民主主義)はマイノリティーを保護する一方で白人中間層(大衆)は切り捨てられている実態から白人中間層(大衆)の利益保護を訴えるポピュリズムが台頭し、アメリカンファースト(自国第一主義)に象徴される排外主義・保護主義的な傾向を生んで(連帯から分断へ)、イギリスのEU離脱、岸田内閣の経済政策(分厚い中間層の復活)やフランスの大統領選挙など国によって濃淡はありますが、その傾向は世界的な拡がりを見せています。このようにアメリカニズムが弱体化している隙(アメリカを中心とする世界経済及び世界秩序が動揺している状況)をついてロシアによるウクライナ侵攻が行われたことは象徴的な出来事と言えるかもしれません。もう1つの問題として、上述のとおりキリスト教の人間中心主義的な世界観はベーコンの自然支配の考え方やデカルト機械的自然観の考え方を生みますが、ヨーロッパではそれらの考え方を背景として自然を支配(搾取)するために科学・技術が発達します(科学革命がヨーロッパにしか発生しなかった理由)。やがて科学・技術の発達に支えられて産業革命が興り資本主義経済が発展しますが、アメリカの大量生産・大量消費を可能にする製造業中心の産業構造とその成長・拡大を支えるために大量の資源が必要となり、上述のとおり人間は自然を支配(搾取)できるという考え方を背景として大規模な環境破壊が進みます。アメリカの大量生産・大量消費を可能にする製造業中心の産業構造は資本主義経済の成功モデルとして日本を含む世界中で模倣され、過去のブログ記事で触れたとおり現在は発展途上国の環境破壊が深刻化しています。なお、この問題は1967年にアメリカ人リン・ホワイトが著書「機械と神」で指摘したことで認識されるようになり、その後、2008年にアメリカで「緑の聖書」が出版されて話題となり、現代の社会問題を踏まえて聖書を読み直す試みが活発になっています。1960年代、アメリカは分散型ネットワーク及びパケット通信という特徴を持ったネットワークであるインターネットを開発して情報革命を先導し、GAFAアメリカの情報産業を代表するoogle、pple、acebook、mazonの4つの名称の頭文字)に象徴される世界の情報プラットフォームを独占したことで、アメリカニズムに代わるネオアメリカニズムの基盤が整えられ、現代の第二次科学革命(情報革命、AI革命、量子革命、バイオ革命、環境革命まど)でも主導的な立場を確立しています。この点、過去のブログ記事でAI革命や情報革命のうちのメタバース、XRなどについては触れましたので、情報革命のうちのNFTや量子革命などのイノベーション(主に科学技術)がどのように芸術(創造性)に影響を与えようとしているのかごく簡単に概観してみたいと思います。
 
▼芸術(創造性)に影響を及ぼす可能性があるイノベーション(科学技術)
 
▼第二次科学革命(現代):科学・技術と芸術の更新
ルネッサンスの発明の1つとして「遠近法」(中心遠近法、線遠近法)がありますが、その代表作としてダヴィンチの壁画「最後の晩餐」が挙げられます。被写体を1つの絶対的な視点から描き、その視点に向かって遠近線を収斂して行くように構成することで遠近感を表現する技法です。この点、ルネサンスは宗教権威が失墜して絶対王政へ移行した時代であり、神や王を中心にする封建社会を前提とした社会秩序で規律されていましたが、そのような世界観を反映するようにニュートン力学絶対的な時空(全世界を規律する唯一無二の神の視点)を前提として物質現象を説明する古典物理学を大成します。また、上述のとおり音楽ではフィナリスを中心として音楽の途中で移旋や転旋を行わない教会旋法(フィナリスは変わることはなく常に音楽の中心にある神のようなもの:宗教権威)から主音を中心として音楽の途中で移調や転調を行う可能性がある調性音楽(主音は変わる可能性はあるが常に音楽の中心にある王のようなもの:絶対王政)へと変遷します。その後、市民革命や第一次世界大戦により絶対王政が崩壊すると、神や王を中心としない市民社会大衆社会)を前提とした社会秩序で規律されるようになりましたが(第二次世界大戦は中心のない社会へ脱却できない日本(主権者:天皇)、ドイツ、イタリアによって勃発)、そのような世界観を反映するようにアインシュタインは光速の世界(ファラデーの電磁気学)にはニュートン力学のような絶対的な時空(全世界を規律する唯一無二の神の視点)を前提とする考え方では説明がつかない物質現象が存在することを発見し、「光速度不変の原則」を前提として時空が相対的に伸縮する(即ち、光速の世界では、時空を基準にして光速度が変化することはなく、光速度を基準として時空が変化する)という相対性理論(世界と人の関係を相対的に規律している多種多様な人の視点)を大成します。このような社会体制や科学理論の革新は音楽や美術にも影響を与えており、主音を中心として規律される調性音楽ではなく主音を生まないように全ての音を平等に使う十二音技法による無調音楽(主音を前提とするのではなく、セリー(音列)の相対関係で規律されるもの:市民社会)が誕生し、また、被写体を1つの絶対的な視点から描くのではなく、複数の相対的な視点から見たイメージ(空間の相対化)を描くキュビスムが誕生します。この点、これまではマスメディアを前提として皆が同じ映像(単視点)を共有する均一な視聴体験しかできませんでしたが、今年から本格的に実用化されているスポーツやイヴェント等でのマルチビューイング技術によって、ナノメディアを前提として各人が異なる映像(多視点)を選択する多様な視聴体験が可能になっていることも現代の時代性を象徴していると言えます。アインシュタインのもう1つ大きな功績は光電効果に基づいた光量子仮説で、これによってノーベル物理学賞を受賞しています。それまで光は「波動」であると考えられていましたが、アインシュタインは金属に光を当てると電子を放出する光電効果があり(太陽光発電の技術に応用)、その光の強度を強めても電子の放出速度は変わらず、電子の放出数のみが増加することから、光はその強度に比例したエネルギーを持つ「粒子」(量子とは物質の最小単位でナノ=1mの10億分の1の大きさの素粒子)であるという光量子仮説を発見します。この発見が基礎となって量子力学が発展します。量子は、様々な観測実験から波動として空間に広がっていますが、光を当て観測しようとすると波動が収縮して粒子になることから、量子は波動でもあり粒子でもあるという二重性を帯びた物質であると考えられています。更に、量子に光を当て観測する際、波動のどの部分で粒子に収縮するのかは確率的であり予測することはできない(波動が高い部分で粒子が見つかる確率が高い)と考えられています。上述のとおりキリスト教の世界観は、神は全知全能であって全ての自然現象は神の予定調和であるというものであり、この世界観を反映するように古典物理学では物質の運動は物理法則に従って計算できる(=神の予定調和)という理論です。これに対し、量子力学では上述のとおり量子の状態(波動又は粒子)が確率的なので、全ての自然現象は波動又は粒子が重なり合った状態で存在し(多世界)、それを人間が観測すること(≠  神の予定調和)で、その自然現象が収縮して結果が定まる(多世界の中から1つの世界が選択され、その他の世界は実現しない)という理論であり(多世界不確定性原理)、これまで人類が信じてきた常識が全く通用しない世界観です。これに対し、アインシュタインは「神はサイコロを振らない」という言葉で反論を試みていますが、アインシュタインの死後に発見された直筆の手紙にはキリスト教に対する懐疑的な眼差しを持っていた一方で、スピノザの汎神論(神=自然)を受け入れていたようであり、神=自然が確率的にしか存在し得ない曖昧なものであるという帰結に違和感を感じていたことが窺がえます。このような現代物理学の研究成果は芸術にも反映されています。デスクトップ・ミュージック(DTM)はバイナリビット(「0」又は「1」のいずれか1つのデジタル信号の組合せで処理)で稼働していますが、量子コンピュータ量子ビット(「0」及び「1」の同時に2つのデジタル信号から構成され、2つの量子ビットの組合せにより「00」、「01」、「10」及び「11」と4つのデジタル信号を処理できるので高速処理が可能)で稼働しており、これを利用してアルゴリズム作曲やライブコーディング(プログラムをリアルタイムで実行しながら音楽や映像を即興的に生成するパフォーマンス)などでクオンタム・ミュージック(量子音楽)の可能性が模索されています。例えば、2016年、メゾソプラノのジュリエット・ポーチンが量子コンピュータと共演する興味深い演奏会が開催されており、量子の揺らぎが音楽的に表現されています。また、2017年、世界初の量子力学をテーマにした野外音楽フェス「Quantum2017」が開催され、1つの会場で2つの音楽を重ね合わせて流すことにより量子の世界を表現した音楽が披露されています。また、先日、韓国人作曲家Cansol vs.Raimukunが同人音楽レーベルから量子の世界を表現した「量子力学のためのピアノ協奏曲」(2022年)を発表しています。この点、歴史上、芸術が果してきた社会的な役割の1つとして目に見えないものを表現することで精神世界を拡げ、人類に豊かな芸術体験をもたらしてきた点が挙げられ、かつては神や人間の感情などが音楽の題材となってきましたが、最近では量子の世界(絶対的な視点ではなく相対的な視点によって定まるパラレルワールド)が音楽の題材として取り上げられるようになってきています。さらに、音響ナノテクノロジーの分野では、音楽に合わせて量子(ナノスケールの分子)が整列する現象が確認され、音楽と量子の間に物質的な作用があることが解明さています。これにより音楽療法ナノテクノロジー(例えば、皮膚の表面に張り付けるナノ膜スピーカやコンプティクスによる多感覚体験など)、バイオテクノロジー、食品化学や材料化学など様々な分野への応用が期待されており、人間の心に働き掛ける音楽から人間の体に直接働き掛ける音楽や人間以外の物に聴かせるための音楽などその性格が拡がりを見せています。また、最近、耳に聞こえる音楽だけではなく耳に聞こえない音楽(周波数、波動や量子場)が心身にどのような影響を与えるのかという「量子場音楽」というジャンルも研究されています。このように量子力学は物理学の分野だけではなく、芸術の分野にも革新的な変化をもたらしています。
 
古典物理学と現代物理学の世界観
※一般人の常識的な感覚に一番近いのはニュートン力学の世界観であり、一般人の知性で何とか理解できるのは相対性理論の世界観(光速のように速い世界を説明するための理論)までだと思いますが、ミクロな世界を含む全ての世界の諸現象を最も矛盾なく説明できるのは量子力学の世界観(粒子のように小さい世界を説明するための理論)だと言われています。しかし、未だダークエネルギーなど相対性理論量子力学でも説明できないものも存在しています。後述する映画「ファザー」が描いている認知症患者が生きるパラレルワールド(現実と認識の間に差が生まれ、それらを区別することができずに混同して現実と認識が交錯する2つの世界で生きている状態)は単世界で生じていることですが、量子力学の多世界(アナログツイン)を映像的に表現しているようで大変に興味深いものがあります。この点、量子力学の多世界は相互に干渉(交錯)しないと考えられていますが、認知症患者が住むパラレルワールドは人間の存在実感を脅かす恐ろしさがあります。なお、量子力学の多世界(アナログツイン)の世界観は、日本人が原作を書いた映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」などでも描かれていますが、我々の頭の中にある世界観も徐々に更新されて行くのかもしれません。
 
上述のような中心のない相対的な世界観は、情報革命(IT革命)でも特徴的に現れています。上述のとおりファラデーが電磁誘導を発見しますが、それを応用してベル(音の大きさを表すデシベルの名前の由来になっている技術者)が有線通信を発明し、テスラ米国の電気自動車会社の社名の由来になっている技術者)が無線通信を発明します。その後、シャノンがバイナリビットによるデジタル信号を発明し、それを前提にデービスがパケット通信を発明したことにより分散型ネットワークのインターネットが誕生し、情報革命(IT革命)が興ります。過去のブログ記事でメタバース、xRやAIなどについては簡単に触れていますので、最近、話題になっているデジタルコンテンツの流通革命とも言うべき「NFT」について簡単に触れてみたいと思います。NFTは、「NFT」(非代替性トークン:デジタル資産の鑑定書+権利書)及び「ブロックチェーン」(分散台帳:ネットワーク全体で取引記録を監視できる仕組み)によって、デジタル資産の改竄、海賊版売買や二重売買などの不適正な取引を防止できるため、管理者(中心となるもの)を置かずに低コストでデジタル資産のネット取引を安全に行うことができる点に特徴があります。2021年3月にデジタルアーティストのピープルがデジタルアート5000枚をコラージュしたNFTアートが約75億円で落札されたことから世界中に知られるようになり、それ以降、世界中の投資家の過熱からNFTバブルと呼ばれる状況が続いていますが、最近ではNFTアートの二次販売(リセール)の価格が暴落するニュースが出ているなどNFTバブルの崩壊も囁かれています。NFTアートの最も大きな特徴は、オープンなコミュニティーとは別に同好の人々が集って密接に交流するコミュニティーが存在し、NFTアートの評価、アーティストとの交流やアーティストへの支援を行うなどサロン文化の復権(近代の貴族や知識人が主体のサロン文化から現代の大衆が主体のサロン文化へ)とも言える状況が見られる点にあります。キュレーターやギャラリストなどの取引仲介者が存在しないことから、取引仲介者がNFTアートの価値付けを行うのではなく、誰でもNFTアートの価値付けに参加できるため、権威ある機関や批評家だけがトップダウン式にNFTアートの価値を発信するのではなく、コミュニティーボトムアップ式にNFTアートの価値を発信できる点に魅力があると言われています。このため、NFTアートが高額で売れるアーティストはコミュニティーの運営が上手いという共通の傾向があると言われています。これまでの時代は皆が同じものを視聴して同じように感動する大衆(マス)社会でしたが、これからの時代はNFTアートにおけるサロン文化の復権に象徴されるようにコミュニティーが多様化及び細分化されて個々人の相対的な価値基準でNFTアートの価値を評価する小衆(ナノ)社会になってきています。その意味では、例えば、コンクールのような絶対的な価値基準を設けて優劣を判断する近代的な意味での権威付けは、益々、その存在意義を失って行くのだろうと思います。現在、NFTアートは、美術作品が主流ですが、徐々に、それ以外の作品も取引されるようになっています。例えば、バレエヴォーカルユニット「POiNT」はバレエ及びヴォーカルのパフォーマンスを収録したNFTアートを販売していますが、「NFTはバーチャルな人間関係にリアルな実感を与えてくる」という特性があることから、NFTアートの制作へのコミュニティーの意見反映、ライブ配信中にQRコードを表示してNFTアートのプレゼント、NFTゲーム「クリプトスペルズ」で使えるNFTアートの販売など、コミュニティーの運営が非常に上手く参加型の芸術体験を演出している成功事例としても注目しています。さらに、ダラス交響楽団は、コロナ禍で影響を受けているメトロポリタン・オペラ管弦楽団を支援するために特別演奏会の動画やその他の特典映像などを収録したNFTを販売していますが(サブスクが大衆(マス)社会を前提として音楽を所有することなく消費するものという位置付けに対し、NFTは小衆(ナノ)社会を前提として再び音楽を所有するものという位置付け)、NFTはクラウドファンディングのような単発的に支援ではなくコミュニティーを基盤として中長期的な視点で文化芸術やアーティストを育んで行くための継続的な支援が可能であるという意味で(NFTは音楽を所有することに留まらず、その価値を高めて行くこともできるコンピテンシー性の高いもの)、その意義は大きいものと期待しています。この点、先日、ウクライナ政府は、ウクライナ侵攻の真実とウクライナの文化芸術をNFTのブロックチェーンに永久に記録すると共に、ウクライナ侵攻とその後の復興に資するための資金を調達する目的としてNFTメタバースで「MetaHistory NFT Museum」を開始しており、世界中から注目されています。ロシアでは有能なIT技術者や芸術家などの国外脱出が増えているそうですが、未来に開かれたウクライナの生き方と過去に閉ざされたロシアの生き方の対照的な姿が印象深く映ります。現在、NATOは、権威主義の脅威に対する加盟国の防衛の観点から科学技術分野のクロスオーバーとも言えるEDTmerging and isruptive echnologies)の重要性を指摘しています。この点、過去のブログ記事で文化芸術分野のクロスオーバーについて触れましたが、第二次科学革命を背景としてメタバース、xRやAIなどデジタルツインの世界に更新されてようとしているなか、NFTの特性を活かしたデジタルコンヴァージェンスによって、新しい芸術体験を提供してくれるNFTアートが生まれてくることを期待したいです。最後に、光が強ければ影を濃くするのは道理ですが、科学技術が破壊や侵奪のためではなく人類の創造的な営為や持続可能な発展などのために活かされることを願って止みません。この点、アインシュタイン特殊相対性理論は、原子力発電の開発だけではなく原子爆弾の開発にも利用されていますが、晩年、アインシュタインは「I made one great mistake in my life when I signed the letter to President Roosevelt recommending that atom bombs be made.」という後悔の言葉を残しています。現在、ロシアや北朝鮮(中国と併せて、未だ中心のない世界へと脱却できない国々)が核兵器使用の可能性を盾にして国際社会を恫喝していますが、ウクライナ侵攻を含めて核の傘権威主義による暴力の隠れ蓑として利用されています。アインシュタインは「Science without religion is lame, Religion without science is blind.」 という言葉も残しており、科学信仰の危さを看破していましたが、それを補うものとして人間の情操に働き掛ける芸術の存在意義が益々増していると言えるかもしれません。
 
 
◆おまけ
上記のブログ記事に因んでパラレルワールドを描いた映画で使用されているバロック音楽と、ウクライナとは対照的にソビエト連邦の崩壊に伴ってEU及びNATOに加盟しているバルト三国の現代作曲家の作品をご紹介します。なお、今回のウクライナ侵攻の契機となったマイダン革命で権威主義への抵抗のシンボルになった一台のピアノを巡る物語を扱ったドキュメンタリー映画「PIANO」が公開される予定です。
 
 
パーセルのオペラ「アーサー王、またはイギリスの偉人」(1691年)より第3幕第2場のバスアリア「汝は如何なる力か」(通称コールドソング)をお聴き下さい。この曲は映画「ファーザー」の冒頭でアンソニー・ホプキンスが演じる認知症の老人が聴いている音楽(実際にはラジオから流れている音楽をヘッドフォンで聴いていると倒錯)として使われていますが、認知症患者が迷い込む現実と幻覚が交錯したアナログツイン(アナログなリアル空間とアナログなバーチャル空間のパラレルワールド)の世界を見事に描いています。過去のブログ記事で触れたポスト・クラシカルを代表する1人、ルドヴィコ・エイナウディこの映画の音楽を担当しています。
 
アルヴォ・ペルトの「マニフィカト」(1989年)をお聴き下さい。ソビエト連邦から独立してEU及びNATOへ加盟しているエストニア出身のペルト(1935~)はミニマリズム楽派に分類されている現代音楽家で、この曲はペルトのティンティナブリ様式の特徴を持った人気曲です。このティンティナブリ様式を逆手にとり初音ミクに歌わせることでエルドリッチな雰囲気を醸し出す興味深い動画もアップされています。
 
ペトリス・ヴァスクスの「沈黙の果実」(2013年)をお聴き下さい。ソビエト連邦から独立してEU及びNATOへ加盟しているラトビア出身のヴァスクス(1946~)は同郷のギンドン・クレーメルに作品を採り上げられて有名になった現代音楽家です。この曲はマザー・テレサの祈りの言葉「沈黙の果実は祈りである、祈りの果実は信仰である、信仰の果実は愛である、愛の果実は奉仕である、奉仕の果実は平和である。」に音楽を付した合唱曲です。
 
ヴィータウタス・バルカウスカスの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ作品12」(1967年)をお聴き下さい。ソビエト連邦から独立してEU及びNATOへ加盟しているリトアニア出身のバルカウスカス(~2020年)はリトアニアを代表する現代作曲家で、この曲は現代のヴァイオリニストにとって重要なレパートリーの1つになっています。リトアニア映画「杉原千畝 スギハラチウネ」(日本のシンドラー)の舞台となった場所ですが、現在、ウクライナの人々にも「命のビザ」(人道支援)が必要とされています。
 
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イギリス人でパヴァオ弦楽四重奏団のメンバーであるヴァイオリニストのケレンザ・ピーコックの呼び掛けで、ウクライナの音楽家に対する人道支援(募金)を募るために世界中のヴァイオリニストによる弦楽合奏の動画が公開されています。現在、この動画には日本人から相曽賢一朗(ヴァイオリニスト&アメリカ音大で後進指導)、浅見善之(東フィル)、川見優子(マレーシアフィル)が参加しています。