【演題】フランツ・リスト生誕200年記念企画
天才フランツ・リストの愛の生涯と芸術
マリー・ダグーへの約束
【脚本】宮澤等 ほか
【演出】松田光輝
【出演】フランツ・リスト役 斉藤嵩也
マリー・ダグー伯爵夫人役 吉田直子
ジョルジュ・サンド役 色羽紫
フレデリック・ショパン役 春山巧
マリア・ヴォジンスカ役 山本実樹子
テオドーロ役 松田光輝
【演奏】<Vc>宮澤等
<Pf>山本実樹子
<Org>二川直彦
【曲目】ショパン 子猫のワルツ
序奏と華麗なるポロネーズ
子犬のワルツ
別れのワルツ
前奏曲「雨だれ」
チェロ・ソナタより第三楽章
葬送行進曲
別れの曲
リスト パガニーニによる大練習曲第6番「主題と変奏」
オーベルマンの谷
超絶技巧練習曲第1番
愛の夢第3番
メフィストワルツ第1番
悲しみのゴンドラ
【会場】アスピアホール(幡ヶ谷)
【開演】13時
【料金】7000円(第1部と第2部の通し券)
【感想】
明後日13日は迎え盆ですが、戦没者をはじめとした先祖の御霊を迎える神聖な日を控えて街中が静寂に包まれているような気がします。僕は仕事ですが…。なお、以前にこのブログで紹介した「皇紀二千六百年奉祝楽曲集」の中に「終戦の詔書」(玉音放送全編)が収録されています。玉音放送の存在は知っていても、意外ときちんと聴いたことがある方は少ないのではないでしょうか。当時、軍部がこの玉音放送を奪取するために皇居に乗り込んだそうですが、この録音にあたったNHKの職員が既に皇居から持ち出していて間一髪だったという逸話が残されています。この機会に歴史に刻まれた音を聞いてみるのも面白いかもしれません。
さて、かなり以前に観た公演ですが、音楽と芝居でリストの生涯を綴る面白い公演だったので、その感想を簡単に残しておきたいと思います。「マリー・ダグーとの約束」は、(曲目を見ても分かるとおり)リストだけでなくショパンにも焦点があてられ、第二部公演の「パトロネージュ、そして恋の始まり」のようなリストの「人間性」まで深堀された描き方はされていませんが、リストとマリー、リストとショパン、ショパンとマリー、そしてショパンとジョルジュの人間模様を描きながら、当時のパリで開花していたサロン文化の雰囲気をよく伝える内容になっています。リストが自分と同じタイプのコンポーザー・ピアニストであったタールベルクへの抗意識を顕にする一方で、ショパンには自分にない音楽性や才能を見出し、お互いに相手の才能を認め惹かれ合う様子が印象的に描かれており、リストとショパンの特殊な関係が一層と明瞭になるような構成になっています。この作品ではリストとショパンの曲を演奏しながら芝居が展開されていきますが、ショパンの曲に漂う豊かな詩情と仄かに香る柔らかい和音が芝居によく馴染んで舞台に彩を添える劇的な効果を生んでおり、ショパンの死を描写したシーンは感動的ですらありました。リストがショパンとの対決を避けていた理由を告白する場面が印象的でしたが、(バックハウスの晩年の逸話などを思い出しながら)結局のところピアノ芸術はそこに収斂して行くものなのだろうなと思いながら拝見していました(どのような描き方がされているのかはここでは触れません。詳しく知りたい方は再演を観に行きましょう!)。最近はマリーがリストに与えた音楽的な影響について研究が進んでいますが、タイトルを見ても分かるとおり、そのことが象徴的に描かれていたのも好感しました。なお、リスト役の斉藤さんとショパン役の春山さんは、各々、外向的で華麗なリストと内向的で繊細なショパンというキャラクターの違いをよく表現する熱演でしたし、マリー役の吉田さんはプライドが高く嫉妬深いマリーの孤独や悲しみを、また、サンド役の色羽さんはショパンを狂わす魔性の女振りをよく伝える好演であったと思います。さすがにプロの役者さんはキャラクターの描き方(際立たせ方)に長けており、客席に伝わってくる情報量も多いので、同時に音楽に対するイマジネーションも自ずと膨らんでいきます。加えて、ピアノの山本さんの澄んだ光沢感のある音色と宮澤さんのチェロの艶やかな音色による華麗とが紡ぎだす詩的な演奏はサロン文化の雰囲気を良く醸し出していたと思います。この作品はオペラやミュージカルとは違いますし、また、普通の芝居とも趣きが異なる新しいジャンルの表現スタイルなのかもしれませんが、このような新しい音楽受容の試みは歓迎したいですし、是非、いつか再演を期待したいです。
http://liszt-concert.at.webry.info/
◆おまけ
お盆前のしめやかな夜に心静かに耳を傾けるのに向いているショパンの曲をリストアップしました。
(iPhoneでは上手く視聴ができないようなので、PCから視聴して下さい。)