大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

ベストオブクラシック 〜南紫音ヴァイオリン・リサイタル〜

【題名】ベストオブクラシック 〜南紫音ヴァイオリン・リサイタル〜
【放送】NHK−FM(平成23年12月21日(水)19:30〜21:10)
【演目】イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ(全6曲) ト短調 作品27
    サン・サーンス ヴァイオリンソナタ第1番 二短調 作品75
【出演】<Vn>南紫音
    <Pf>江口玲
【公演】平成23年8月20日(土)フィリアホール
【感想】
現在、僕は、諸事情(プロフィールを参照)から演奏会を聴きに行けませんでしたが、去る8月20日にフィリアホールで開催された南紫音ヴァイオリン・リサイタルの模様がNHK−FMで放送されるのでエアチェックすることにしました。(使用楽器:日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウスの銘器「ヨアヒム」)

先ず、無伴奏ですが、「バッハは語るように、イザイは歌うように」とよく言われますが、単なる超絶技巧曲の華やかさだけではなく肌理細かく表情豊かな歌を聴かせてくれる好演でした。以前、ロン・ティボーのガラコンで南さんの演奏を聴きましたが、その時はやや楽曲を力で捻じ伏せているような印象があり良くも悪くも「若さ」を感じましたが、この演奏を聴くと余計な力が抜けて技巧や解釈のどこにも無理がなく、楽曲と真摯に向き合い掘り下げた表現が聴かれる一皮剥けた南さんの充実した演奏を聴くことができました。

第1番はしなやかに楽器を鳴らしながら多声音楽の綾を瑞々しく歌い上げる好演でした。第2番は音色が豊かで強弱や硬軟を織り交ぜた響きのグラデーションを生かした奥行きのある演奏を楽しめた。第3番はコンクールの課題曲になることが多い難曲ですが鉄壁の技巧による凛とした揺るぎない演奏に脱帽しました。第4番は速いパッセージも含めて一音一音を丁寧に鳴らし切る好演で、デリケートな響きの解き放ち方など鳥肌物でした。第5番は音楽の密度や間を扱い方が絶妙な面白い演奏を聴けました。第6番は技巧的に難しい部分でも曖昧なところや破綻を来しているところはなく(最後がやや残念)、地に足の着いた安定感と堂々たる風格を感じさせる演奏は見事でした。

フィリアホールの音響は無伴奏の響きの世界を豊かに広げてくれる(しかし音楽を阻害するような過剰なところはない)懐の深いホールなので個人的には気に入っています。関東でも屈指の音響を誇る室内楽専用ホールです。

次に、ソナタですが、ヴァイオリンとピアノの呼吸感が素晴らしく、抒情豊かに歌うヴァイオリン、これにぴったりと寄り添うピアノの輝かしい調べが音楽に多彩な彩りを添えている好演でした。アレグロのヴァイオリンとピアノの(ギスギスとした堅苦しさのない)緊密で軽快な呼応が程良い緊張感を生む愉快なもので面白い演奏を楽しめました。この二人は相性が良いのかもしれませんが、本当に息が合っています。