大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

Art Space "O" Concert No.158

【演題】Art Space "O" Concert No.158
    漆原朝子(Vn)/ベリー・スナイダー(Pf) デュオ
    〜 シューマン生誕200年周年記念 〜
【演目】シューマン ヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調op.105
          ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調 遺作
          ヴァイオリンとピアノのための「3つのロマンス」op.94
          ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調op.121
  〜 アンコール 〜
    シューマン 森の情景op.87より第7番「予言の鳥」ト短調(ヴァイオリン編曲版)
    ブラームス F.A.E.ソナタより第三楽章ハ短調スケルツォ
【出演】<Vn>漆原朝子
    <Pf>ベリー・スナイダー
【会場】Art Space "O"
【開演】16時〜
【料金】5000円
【感想】
今日はシューマンのヴァイオリン・ソナタで定評のある漆原朝子さん&ベリー・スナイダーさんによる演奏会があるというので聴きに行くことにしました。シューマンのヴァイオリン・ソナタは非常に扱い難い素材でヴァイオリン音楽の美質である技巧的な華やかさや輝かしい高音のパッセージなどもありませんが、この名コンビが上手く調理して内容の濃い演奏を楽しめました。なお、アートスペース・オーはギャラリー・スペースを演奏会場として使用していますが、約100名弱しか入らない非常に贅沢な会場で、サロンというより自分の部屋で演奏して貰っているような臨場感は他の演奏会場では味わえません。弦楽器などは箱の中で響いている音が聴こえてくるほどです。では、簡単に感想を残しておきましょう。

http://www.artspace-oh.com/
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1984518

第1番ですが、ヴァイオリンは豊潤な中低音による地に足の付いた安定感のある演奏が聴かれ、ダイナミックなフレージング、ニュアンスに富むビブラート、夢想と情熱、憧憬と憂鬱など様々なパトスが交錯する内省的で情感豊かな演奏を楽しめました。ピアノは粒際立つドライな演奏が印象的で、ヴァイオリンとピアノがアグレッシブに絡み合う有機的な演奏を楽しめました。シューマンの音楽はショパンの音楽のように決して饒舌でもなく論旨も一貫していないところがありますが、その一筋縄ではいかない矛盾や屈折を孕んだところが実に人間味があって好きなところです。

第3番ですが、F.A.E.ソナタのうち、ディートリヒが作曲した第一楽章とブラームスが作曲した第三楽章を新たにシューマンが作曲し直して完成させた作品です。この曲はシューマン精神障害が重くなってきた頃に作曲された曲ですが、その影響なのか神経質で複雑・難解な語り口に戸惑いを覚えるところがありますし、(ヴァイオリンの弓やピアノの指が暴れると言うか)傍で見ていて非常に不自然で弾き難そうな印象を拭えません。そんな気難しさはありますが、ヴァイオリンとピアノが緊密に呼応しながら、音楽的な文脈が明瞭に感じられる良く整理されたまとまりのある演奏で楽しませてくれました。

3つのロマンスですが、ヴァイオリンの叙情美とデリカシー、ピアノの透明感のある響き、和音が美しく絡み合うロマン香る演奏に魅了されました。

第2番ですが、第一楽章冒頭から激しい感情の発露を思わせるエネルギッシュな演奏に惹き込まれ、デリカシーのある歌い口で揺れ動く内面を写すような詩情を湛えた雄弁な演奏に聴き入りました。第二楽章はヴァイオリンとピアノがリズミカルに呼応する息の合った演奏が展開され、どこか夢想的な雰囲気の漂う中間部も大変に魅力的でした。第三楽章はコラールの主題に基づく変奏曲ですが、囁き掛けるようなピッチカートと、これに応えるピアノの繊細な調べが織り成す優しい音楽に酔い痴れました。第四楽章はヴァイオリンとピアノが緊密に呼応し、コーダへ向けて一気に畳み掛けて行く緊迫感のある演奏は聴き応えがありました。

なお、アンコールで演奏されたブラームススケルツォも素晴らしく(とりわけ漆原さんの絶妙な節回し)、次回はこのコンビでブラームスのヴァイオリン・ソナタも採り上げて欲しいなと..。

〜 クラシックへの誘い 〜
ビギナーのためにラブリー&イージーな曲を紹介するコーナーです。これを機会に1人でも多くの人がクラシック音楽に興味を持って戴ければと願って止みません。今日は定番中の定番というかベタベタな選曲で恐縮ですが、アヴェ・マリア特集!誰が決めたのか知りませんが、世界3大アヴェ・マリアと言えば、カッチーニ、グノー/バッハ、シューベルトアヴェ・マリアですが、洋の東西を問わず色々なジャンルの歌い手によって歌い継がれてきた曲たちです(確か美空ひばりさんもレパートリーにされていたと思います)。そして、少し変わったところではマスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲に、マッツォーニがラテン語典礼文ではなくイタリア語で作詞したオペラチックなアヴェ・マリアも有名です。アヴェ・マリアを題材にした曲はまだまだ沢山ありますので、ご興味のある方はコレクトしてみて下さい。

カッチーニ アヴェ・マリア
http://www.youtube.com/watch?v=3CBSTAoP-2Y(Org.)
http://www.youtube.com/watch?v=gQAUuTLwm5Q(Arg.)
▼グノー/バッハ アヴェ・マリア
http://www.youtube.com/watch?v=53VGeXpPOeo(Org.)
http://www.youtube.com/watch?v=suZ4IYVLZbU(Arg.)
シューベルト アヴェ・マリア
http://www.youtube.com/watch?v=aQVz6vuNq7s(Org.)
http://www.youtube.com/watch?v=IkEXTbjVgJ0(Arg.)
▼マスカーニ
http://www.youtube.com/watch?v=dl3F3TjNf-A