ぶらあび

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菅井円加さんがローザンヌ国際バレエコンクールで優勝

昨日、若手バレエダンサーの登竜門として知られる第40回ローザンヌ国際バレエコンクール菅井円加さん(東京都町田市の私立和光高校2年)が優勝しました。今年はDVD審査で79人(19カ国)が本選会へ進出しましたが、そのうち日本人は最多の19人だったそうです。ローザンヌ国際バレエコンクールと言えば、過去に日本人の入賞者を数多く輩出していますが、1989年に熊川哲也さん(元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル)が優勝して以来、菅井さんは日本人として2人目の優勝となります。今年の審査員を務めた吉田都さん(元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル)も1983年にこのコンクールに入賞していますが、菅井さんの演技について「クラシックバレエコンテンポラリーダンスの両方で素晴らしい演技ができた点が大きく評価された。コンテンポラリーは素晴らしく、将来どんな振付家の作品でも、菅井さんならどんどんとチャレンジできる。そういう意味で成長が楽しみだ。一方、クラシックも素晴らしいので、幅広く踊れる。今、バレエ団はそういうダンサーを求めているので多くのカンパニーからオファーが来ると思う。世界を舞台に活躍できる大型のダンサーだ。プロポーションなどが特に優れているというのではないが、それを感じさせない程のダンスの質の高さ、全体の体の動きのコーディネーションが本当に素晴らしい。」と好評を述べています。また、今年の審査委員長を務めたジャン・クリストフ・マイヨさんは菅井さんの演技について「クラシックは円熟した完成度の高いもので驚いた。同時にコンテンポラリーの表現も素晴らしかった。一般にダンサーはクラシックかコンテンポラリーのどちらかにより優れているものだ。ところが円加の場合は両方に優れている。両者に境界線を引かず、両方必要だと知ってもいる。今後のダンス界を象徴するようなダンサーが登場した。」と絶賛しています。先日、映画「エトワール」の感想でも書きましたが、伝統と格式を誇るパリ・オペラ座でもレパートリーを広げるためにクラシックの作品に留まらずモダンの作品にも精力的に取り組んでいるそうですが、これからのバレエダンサーはクラシックとモダンの双方の作品をバランス良く熟して行く能力が求められています。

http://www.prixdelausanne.tv/
<菅井さんの演技>
 ■ クラシックバレエ 32:18〜
 ■ コンテンポラリーダンス 76:12〜
 ■ 結果発表 92:16〜、96:59〜
 ■ インタビュー 100:00〜

菅井さんはコンテポラリーダンスでコンテンポラリー賞も受賞しており、「自分を自由にしたいという内容のこの作品は私に合っていて、自分を出せる踊りだと思っていた。だから、クラシックとは違う一面を皆さんに観てもらえたらと思い、一生懸命練習して臨んだ」と語っていますが、この「自分を自由にする」という感覚(しかし、それは基本や作品と離れて無頼無法に振る舞うという無責任な意味ではなく)が芸術には大切だと思いますし、また、そこに難しさがあると思います。審査委員長のマイヨさんは「毎年、今後の成長が期待できるダンサーを選ぶのがこのコンクールの特色だが、今回は非常にレベルが高かったので容易に選抜ができたし、また、ダンス界の将来の発展も大いに期待できる」と語っています。昨年からチャイコフスキー・コンクールでは出場者の潜在能力ではなく出場者の現時点での完成度に審査の重点を置いているそうですが、いずれにしても出場者の潜在能力の芽を摘んでしまうようなコンクールでは有害無益です。この点、出場者の潜在能力を伸ばす方向で工夫が凝らされている浜松国際ピアノコンクールのようなコンクールの在り方を歓迎したいです。

吉田さんは「将来、舞台をやるとなったら、それこそ自分の中から音楽が出てくる位に体の中に音楽が入っていないと駄目ですよね。そうでないと体が解放されないと思います。とにかく音楽を嫌というほど聞きますね。新しい曲の場合は特に音だけを何度も聞きますね。・・・(中略)・・・自分は1つのフレーズの中で1連の動作を行うとき、例えば、最初はゆっくりと体を動かし、その後、早めに体を動かして最後はきちんとフレーズの中に1連の動作を収めるということをやりますが、それが動きに強弱を生み出し、見ていても面白いと思います。機械みたいにいつもカウントで踊ってもそれは面白くないですから。1つのフレーズの中で音楽と遊ぶような感じです。」と語っていますが、器楽の演奏でも“楽譜に縛られるのではなく、楽譜から自由になれ”と言います。これは楽譜を無視して好き勝手に演奏して良いということではなく、本番までに楽譜が自分の言葉になっていなければならないという趣旨だと思います。このブログでカザルスが弾くバッハの無伴奏チェロ組曲を聴いていると「楽曲の中に溶け込んで一体となっているような自然な息遣い」を感じると書きましたが、吉田さんが言っているのも“音楽に縛られるのではなく、音楽から自由になれるまで音楽を自分の体の中に染み込ませる”という趣旨だと思われます。

なお、コーチのパトリック・アルマンドさんは「みんな1つ1つの動きは知っているが、アンシェヌマンのいろいろなパターン(“ブリゼ・クッペ・クッペ”などの足の動きのバリエーション)を知らない。残念ながら各国のバレエ教師は同じ動きばかりを教えているようだ。」と嘆いておられ、ローザンヌ国際バレエコンクールで求めているのは「新しいパターンなどを教えられた場合、それを受け入れられる開かれた精神だ。」と語っていますが、既成の概念に囚われることなく斬新なものを受け入れることができる基本に裏打ちされた柔軟性がクラシックバレエだけではなくコンテポラリーダンスを踊るうえで(これからのバレエダンサーにとって)必要な素養であるということを言いたいのではないかと思われます。

因みに、このコンクールの入賞者には奨学金とバレエ学校へ1年間留学する権利(菅井さんは英国名門のバレエ学校であるバーミンガム・ロイヤル・バレエへの留学を希望しているとか)が贈られます。