大藝海〜藝術を編む〜

言葉を編む「大言海」(大槻文彦)、音楽を編む「大音海」(湯浅学)に肖って藝術を編む「大藝海」と名付けました。伝統に根差しながらも時代を「革新」する新しい芸術作品とこれを創作・実演する無名でも若く有能な芸術家をジャンルレスにキャッチアップしていきます。※※拙サイト及びその記事のリンク、転載、引用などは固くお断りします。※※

源氏物語〜千年の謎〜

【題名】源氏物語〜千年の謎〜
【監督】鶴橋康夫
【脚本】高山由紀子
【美術】今村力
【衣装】宮本まさ江
【音楽】住友紀人
【出演】生田斗真光源氏
    中谷美紀紫式部
    窪塚洋介安倍晴明
    東山紀之藤原道長
    真木よう子(桐壺/藤壺
    多部未華子(葵の上)
    芦名星(夕顔の君)
    蓮佛美沙子中宮彰子)
    室井滋(弘徽殿)
    田中麗奈六条御息所
    東儀秀樹(帝) ほか
【会場】ワーナー・マイカル・シネマズ つきみ野
【料金】1800円
【感想】(ネタバレ注意)

源氏物語 千年の謎 通常版 [DVD]

今日は、去る10日から封切られている映画「源氏物語〜千年の謎〜」を観に行きました。源氏物語の誕生秘話を巡る現実世界と、光源氏と女性達との情事を描く物語世界とが交差する構成でストーリーが展開されて行きます。この脚本はフィクションですが、菅原道真(その娘彰子の家庭教師である紫式部)と菅原道隆(その娘定子の家庭教師である清少納言)の権力闘争(史実)をベースにして、菅原道真紫式部の情事と光源氏六条御息所の情事とを対比し、紫式部の隠れた女の性が六条御息所に化体して現実世界と物語世界とが交錯しながら物語が進んで行くものでした。やや六条御息所安倍晴明の描き方がカルトチックで興醒めしましたが、当時の時代感覚(怨霊思想)を表す象徴的なシーンとして割り切って観れば呑み込めないものでもありませんでした。女性達の凄まじい嫉妬や情念と、それに翻弄される若い光源氏の心の葛藤が(良くも悪くも生々しいく)克明に描写されていて見応えがあります。六条御息所が己の罪深き業を悟り、光源氏との関係を毅然と断ち切るシーンと、紫式部菅原道真に惜しまれながらも暇を貰って里帰りするシーンとが対比して描かれていましたが、何事につけても未練を引き摺っていつまでも執着する態度は実に見苦しく、退き際・散り際を弁えて潔く振る舞う生き様(美学、知恵)のようなものが描かれていたのが印象的でした。なお、藤壷役の真木よう子さんのラブシーンが話題になっていましたが、諸兄の期待を見事に裏切るもので年頃の子供と一緒に観に行ってもバツが悪くなるようなことはないと思います(笑)個人的に、この映画で見所だったのは、平安王朝の風雅な生活と中世の日本人(貴族)の豊かな色彩感覚でした。例えば、当時の建築物は外界(自然)と内界(屋内)との明確な区切りがなく、広く開け放たれた屋内から外界(庭園、自然)へと自然な空間的拡がりを持っていて、内界(生活)から隔絶するものとして外界(自然)を捉えていたのではなく、外界(自然)が内界(生活)の一部として取り込まれて生活が営まれていたことが伺えます。映画の中で菅原道真紫式部が月を愛でるシーンが度々出て来るのが印象的ですが、果たして皆さんは(皆既月食以外で)月を愛でる習慣(心の余裕)をお持ちですか?また、衣装(十二単・衣冠束帯)や調度品、牛車等の色使いには、当時の日本人の豊かな色彩感覚が表れていて目を瞠ります。中世の日本人(貴族)は四季折々の花鳥風月を愛で和歌を詠む感性と教養を兼ね備え、書画・歌舞音曲を嗜む才人が多かったようですが、中世の日本人(貴族)は現代の日本人よりも遥かに感受性が豊かだったことの証かもしれません。あなたも暫し平安王朝の雅な世界へタイムトリップしてみませんか?

http://www.genji-nazo.jp/index.html

映画の中盤で東儀秀樹さんによる篳篥の演奏が出て来ますが、邦楽器が持つ響きの魅力を堪能してみて下さい。なお、邦楽器にはピアノの鍵盤と鍵盤の間に抜け落ちてしまった豊かな響きの世界を持っており、その点も魅力の1つだと思います。

http://www.youtube.com/watch?v=7rhXSjooMH4