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さて、ハンディーキャップがある人のなかには、とりわけ芸術文化の分野で秀でた才覚を開花させる人が多く誕生し(この背景には江戸時代に目にハンディーキャップがある人達に対する幕府の社会福祉政策として「当道座」に所属している男性(検校、別当、勾当、座頭)や「瞽女座」に所属している女性が琵琶、三弦、筝等の職業の専有を許されていたことなどが挙げられます。)、例えば、近代筝曲の祖・八橋検校など日本の芸術文化史に欠くことができない著名人が輩出しています。....ということで、今日は津軽三味線の名人・高橋竹山(故人)の半生を描いたドキュメンタリー映画「津軽のカマリ」について備忘録を残しつつ、津軽三味線の源流となった越後瞽女にして無形重要文化財の小林ハル(故人)や杉本シズ(故人)について少し触れておきたいと思います。因みに、映画「座頭市」は江戸時代に千葉県飯岡を縄張りにした侠客・飯岡助五郎の子分として実在した人物(茨城県笠間出身の座頭の市)をモデルにしていますが、そのなかで津軽三味線の伴奏による津軽民謡「津軽じょんがら節」(演歌歌手・松村和子)が登場します(このシーンは松村和子の歌唱力が津軽じょんがら節の魅力を際立たせていることに加えて、1階の喧騒と対比された2階の静寂のなかで水の音(雨、水筒)、金属の音(刀の身)、木の音(刀の柄、柱)、座頭市が足で刻むリズム等によって座頭市が生きる「音の世界」(音が構築する多層で立体的な世界)が見事に描き出されている点で出色です)。また、TVシリーズ「座頭市物語」第23作では瞽女(女優・浅丘ルリ子)が登場します。なお、勝新太郎が主演した座頭市シリーズは海外での評価も高く、勝新太郎以降に別の俳優によるリメイク作品が数多く作られていますが、いずれも駄作続きで大変に残念です。
【題名】映画「津軽のカマリ」
【監督】大西功一
【撮影】大西功一
【出演】高橋竹山(初代)
高橋竹山(二代目)
高橋哲子(孫)
西川洋子(最初の弟子)
八戸竹清(弟子)
高橋栄山(弟子)
須藤雲栄(民謡歌手)
高橋竹童(最後の内弟子) ほか
【公開】全国各地キャラバン上映会の日程
【感想】
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【正調民謡の店 甚太古】(2019年12月30日閉店予定)
囲炉裏のあるお座敷で青森の雪景と絶品の郷土料理を楽しみながら、高橋竹山の最初の弟子・西川洋子(竹宛)さんによる三味線の生演奏が聴ける店(青森県青森市安方1丁目6−16)
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【参考】伝統音楽の失われた100年とその復興
(1)文明開花と文化主義による欧化政策
「音樂取調成績申報書」(1884年、音楽取調掛から文部卿へ提出)より抜粋
本邦俗曲ハ古来識者ノ為ニ放擲セラレ擧ケテ之ヲ無学ノ輩ノ手ニ委スルヨリ音樂ノ本旨ニ悖リ人事至底ノ用途ニ歸シ随テ野卑ニ流レ其歌曲ノ成立ハ今日最モ下流ノ極ニ達セリ是ヲ以テ其弊害勝テ言フベカラザルモノアリ試ニ其一二ヲ述ベンニ俗曲ノ淫奔猥褻ナルハ風教ノ酖毒ヲ為ス是其一也,俗曲ノ旋律淫風ヲ極ムルハ士人ノ趣味ヲ淫俟ニ導キ爲メニ雅正善良ナル音樂ノ振興ヲ妨害スル是其二也,俗曲ノ淫邪ナルハ誘惑ノ途ヲ開キ徳教ノ涵養ヲ妨害スル是其三也,外交日新ニ際シ彼此ノ文物相融通スルノ今日ニ在テナホ此ノ如キ音曲ノ盛ニ行ハルヽハ國家ノ体面ヲ毀損スル是其四也
☞ 音楽取調掛による日本音楽の分類: ①雅楽:天皇、寺社、武士が嗜む音楽(雅楽、声明、普化尺八等の宗教音楽、能楽、筑紫筝、薩摩琵琶等の教養音楽)、②俗楽:庶民が嗜む音楽(箏曲、長唄、三味線、浄瑠璃、民謡、流行歌、童謡等の大衆音楽) 、③淫楽:俗楽のうち三味線、浄瑠璃など男女の色恋沙汰を歌う音楽。
☞ 「俗曲」の例:江戸端唄「梅は咲いたか」は江戸時代に流行した俗謡で花柳界の芸妓達を季節の花や貝に喩えて浮名を流す客の浮気心を三味線の伴奏に乗せて艶っぽく歌うお座敷唄。季節の花や貝を隠語として男女関係の機微を匂わす小粋な歌詞や色香などを「淫奔猥褻」「淫風」「淫邪」と形容。
「音樂利害」(1891年、神津專三郎著)より抜粋
樂記ニ鄭衛ノ音ハ亂世ノ音ナリ,桑間,濮上ノ音ハ亡國ノ音ナリトハ,淫聲ニ世ヲ亂シ,國ヲ亡スノ理アルヲイヘリ,今ノ妓樂,三線,浄瑠璃ハ,遙ニ古ヘノ鄭衛,桑間,濮上ノ淫聲ニ過クベシ
☞ 「鄭衛」「桑間」「濮上」:春秋時代の中国の国名又は地名で、これらの国又は地域では儒教が理想とする礼の音楽ではなく男女の出会いなどを扱った謡が流行(「桑間濮上之音、亡國之音也」(礼記))。
☞ 「淫聲」:性行為のときに発する声☟ <文明開化に対する明治時代の文化人の批評> 夏目漱石は、文明開化の危さを「日本の現代の開化は外発的である」と看破したうえで「現代日本の開化は皮相上滑りの開化である」と批判し(「現代日本の開花」より)、「伝統音楽の失われた100年」とでも形容すべき悲劇を予見。<文化主義に対する昭和時代の文化人の批評> 三島由紀夫は、文化主義の危さを「市民道徳の形成に有効な部分だけを活用し、有害な部分を抑圧すること」と看破したうえで「文化をその血みどろの母胎の生命や生殖行為から切り離して、何か喜ばしい人間主義的成果によって判断しようとする一傾向」と批判し、「近松も西鶴も芭蕉もいない昭和元禄」を「華美な風俗」ばかりが氾濫する「見せかけの文化尊重」だと悲観(「文化防衛論」より)。
「動物愛護及び管理に関する法律」(1999年、改正法)より抜粋
第44条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。(中略)
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
☞ 三味線の胴に張ってある皮:野良猫の皮(細棹三味線、中棹三味線)、野良犬の皮(太棹三味線)の皮。
☞ 大鼓、小鼓に張ってある皮:馬の皮。
☞ 改正法の付帯決議:日本の伝統芸能に係る三味線等の製造に支障をきたさないよう、伝統文化の保護の行政とも連携して、都道府県等に引き取られ殺処分に付されている犬及びねこの活用などにおいて適切な配慮がなされるよう措置すること。(但し、現在では保健所で殺処分された野良猫や野良犬の皮の使用も中止。)☟ <動物愛護政策に対する平成時代の文化人の批評> 永六輔は、動物愛護法改正を受けて「古典芸能は、みんな三味線を使うじゃないですか。プラスチックで作ると、全然音が違う。日本の伝統芸能を守るためには、どうしても猫の皮が必要」と必要性を説いたうえで、「保健所が処分する野良猫は相当数にのぼっているのだから、矛盾」と許容性に関する問題を提起し、「僕は、「伝統芸能にかかわる三味線、太鼓、鼓など楽器の製造に使う場合は、これに当てはまらない」という付則をつけなさい、という運動をしています」と自らの立場を表明(「WEBサイト」より)。
☞ 現在は楽器に使用する皮の殆どを輸入に頼るか又は(音色は落ちますが)合成皮が使用されているのが実態。最近ではエレキ三味線など新しい表現スタイルに適した楽器の改良と併せてエレクトリック三味線など動物愛護に配慮した新しい楽器の開発も活発。その一方で、三味線の年間製造数は18,000棹(1970年)から3,400棹(2017年)まで落ち込み(全邦連)、三味線の製造技術の伝承が危機的な状況。
(2)グローバル化によるアイデンティティの回復
「教育課程審議会答申」(1998年7月29日)より抜粋
中学(音楽) 我が国の伝統的な音楽文化の良さに気付き、尊重しようとする態度を育成する観点から、和楽器などを活用した表現や鑑賞の活動を通して、我が国や郷土の伝統音楽を体験できるようにする。
☞ これを契機にして邦楽コンクールが開催されるようになり若い邦楽演奏者を育成する気運。それに伴って和楽器ユニットの活躍が活発化し、その活動が注目されるなど邦楽ブームの兆し。
【資料】
▼津軽三味線の系譜 ※以下の画像をクリックすると拡大表示
▼津軽三味線にゆかりの地(CDを片手に史跡を巡る音楽の旅)
信濃追分 | 高田瞽女 | 長岡瞽女 | ||
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碓氷関所跡/碓氷峠の入り口にある安中藩の碓氷関所跡(群馬県安中市松井田町横川573)で、日本で最初のマラソン大会である安中藩の「遠足」を題材とした映画「サムライマラソン」の舞台。碓氷峠は片峠で上野国から信濃国へ向かう中山道は上り坂のみで、軽井沢バス転落事故の現場(長野県北佐久郡軽井沢町1045−1)。 | 信濃追分発祥の地碑/碓氷峠を越えた追分宿跡(分去れ(長野県北佐久郡軽井沢町大字追分559)の左方が中山道(至、滋賀県)、右方が北國街道(至、新潟県)、後方が中山道(至、東京都))にある信濃追分発祥の地碑(長野県北佐久郡軽井沢町大字追分1155−8)。碓氷峠を越える際に唄われた馬子唄が信濃追分節で、越後瞽女により津軽に伝わって津軽三味線を発祥する契機となっています。追分宿跡には枡形の茶屋と呼ばれる「つがるや」(長野県北佐久郡軽井沢町大字追分568)の歴史的建造物(ほぼ原型のまま現存)等があり。なお、左方の中山道方面へ行くと信州味噌(安養寺味噌)発祥の地である安養寺(長野県佐久市安原1687)があり、安養寺味噌(信州味噌)で作った安養寺ラーメン(麺匠文蔵本店)が名物。 | 高田瞽女・杉本シズの墓/善念寺(新潟県上越市東本町3-2-51) には、高田瞽女の墓が安置されています。高田瞽女は弟子を養子にして相伝されたので、同じ墓に杉本シズの師匠・杉本キクイ(無形文化財)を含む高田瞽女の先代3名の菩提も弔われています。 | 瞽女ミュージアム高田/善念寺の近くにある瞽女ミュージアム高田(新潟県上越市東本町1-2-33)では、高田瞽女の文化を保存し、現代に伝えています。2020年春に映画「瞽女GOZE」の公開も予定されています。 | 長岡瞽女・小林ハル(無形文化財)の墓/小林ハルさんが晩年を過ごした胎内やすらぎの家(新潟県胎内市熱田坂881−86)を背にして胎内フィッシングセンターを右手に見ながら道沿いに進むと左手の私設の墓地に小林ハルさんの墓があります(地図)。また、胎内やすらぎの家の敷地内には瞽女顕彰碑が建立されています。また、小林ハルさんの生涯を描いた映画「瞽女GOZE」が2020年春に公開予定であり、さらに、瞽女唄ネットワークが長岡瞽女唄を保存し、その伝承を支援するための取組みを行っています。 |
津軽三味線 | ||||
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仁太坊之里碑/青森県五所川原市金木町神原の出身で、はぐれ越後瞽女の後に付いて三味線を学んで津軽三味線を創始者した仁太坊(本名、秋元仁太郎・1857年(安政4年)~1928年(昭和3年)の生誕地で、津軽三味線発祥の地(青森県五所川原市金木町神原桜元29)になります。この近くには津軽三味線会館(青森県五所川原市金木町朝日山189-3)があり、その向かいには同地が生誕地である太宰治のミュージアムがあります(映画「太宰治」が現在公開中)。 | 仁太坊生誕150周年記念碑/仁太坊生誕150周年祈念碑(青森県五所川原市金木町神原小泉126ー77)。仁太坊ははぐれ越後瞽女に影響を受けながら津軽三味線に特徴である「叩き奏法」を編み出します。 | 津軽三味線発祥之地碑/文豪・太宰治は青森県五所川原市金木町の出身で、 |
三味線塚/津軽三味線の祖・仁太坊を顕彰した三味線塚(青森県五所川原市金木町川倉七夕野426−1)です。現在、津軽三味線の名人・高橋竹山の半生を描いた映画「津軽のマガリ」が上映されています。 |
高橋竹山顕彰碑/津軽三味線の名人・高橋竹山は青森県平内町小湊の出身で、平内町歴史民俗資料館(青森県弘前市西茂森1-23-8)には高橋竹山顕彰碑が建立されています。現在、高橋竹山の半生を描いた映画「津軽のカマリ」が公開されていますが、その音楽(演奏)の“凄さ”に圧倒されます。なお、現在、民族資料館では「初代高橋竹山資料展示」が行われ、実際に高橋竹山が使用されていた三味線や尺八等が展示されています。 |
【おまけ】
映画の予告編に収録されている高橋竹山の演奏を一聴すれば、(ジャンルを問わず)音楽を好むものであれば、その音楽(演奏)の“凄さ”に圧倒されるはずです。いくつか音源が残されているとは言え、高橋竹山の生演奏に触れる機会に一度も恵まれなかった不遇が心から悔やまれてなりません。
♬ 映画「瞽女GOZE」(2020年春公開予定)
2005年(平成17年)に105歳の生涯を閉じた最後の瞽女・小林ハル(無形文化財)の生涯を描いた伝記映画です。なかでも小林ハルの子供時代を演じた川北のんの熱演には目を見張るものがあり、その迫真の演技によって小林ハルの壮絶な人生をまざまざと突き付けられているようで打ちのめされます。
♬ 映画「海山 たけのおと」(都山流尺八:ジョン・海山・ネプチューン)
尺八に人生を捧げたジョン・海山・ネプチューン(カリフォルニア出身、千葉県鴨川市在住)を題材としたドキュメンタリー映画「海山 たけのおと」が公開中です。1977年に都山流尺八の師範免許を取得して「海山」の号を受け、1980年にはアルバム「BAMBOO」が文化庁芸術祭優秀賞を受賞しています。